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2012年08月02日
標識せずに分子を見る光シート型のラマン顕微鏡を開発 〜メダカ稚魚の虹色素胞の分子イメージングに成功~

 基礎生物学研究所の野中茂紀准教授と大嶋佑介研究員(現 愛媛大学医学部 助教)らは、シート状に整形したレーザービームを試料に照射し、光の照射面に対して垂直な方向から画像を撮影する方式の顕微鏡(光シート型顕微鏡)と、無染色で分子を可視化できるラマン顕微鏡の原理を組み合わせた「光シート型ラマン顕微鏡」を開発し、生きたメダカ稚魚の虹色素胞に含まれるグアニン分子のラマンイメージングに成功しました。光シート型顕微鏡法による生体ラマンイメージングの報告は世界初です。

 

「研究の背景」

 生物学の研究において、生体内の分子を可視化する「分子イメージング」を行うためには、通常は観察対象の分子を蛍光などで標識することが必要です。近年では、共焦点顕微鏡などの高性能な蛍光顕微鏡とGFPなどの蛍光蛋白質を利用した遺伝子工学技術を駆使した分子イメージングを通じて、生体分子の機能が次々と明らかにされています。ところが、蛍光標識による分子イメージング技術には、いくつかの欠点があります。標識によって分子が本来の機能を失う可能性がまったくないわけではありません。また、遺伝子組み換え技術では、蛋白質以外の脂質や糖、その他低分子化合物などを標識することは困難です。そこで、無染色・無標識で分子を見るための新しい手法として、「ラマン分光法」を利用したラマン顕微鏡が注目を集めています。ラマン分光法とは、散乱光に含まれる分子固有の振動状態を反映した波長成分の変化を波形(スペクトル)として解析することで、分子の定性分析、定量分析を行う手法です。ラマン分光顕微鏡は実用化されていますが、ラマン散乱のシグナルはきわめて微弱なため、測定に非常な長時間を要する点が問題でした。

 

「研究の成果」

 研究グループは、今回、ラマン顕微鏡に「光シート型」と呼ばれる顕微鏡光学システムを組み合わせた分子イメージング技術を新たに開発しました。光シート型顕微鏡は、シート状に整形したレーザービームを試料に照射し、光の照射面に対して垂直な方向から画像を撮影する方式で、照射光に対するシグナル光の取得効率が高いため褪色や光毒性が抑えられ、かつ深部観察性能にも優れています。この原理を応用して、無標識で生体試料の分子イメージングを可能にする光シート型ラマン顕微鏡を開発し(図1)、メダカ稚魚を生きたまま観察して虹色素胞の分子イメージングに成功しました。

 

Fig1-s.jpg

図1: 光シート型ラマン顕微鏡の光路図

 

fig2-s.jpg

図2: 上)メダカの眼の暗視野像とラマンイメージ (745nm)。下)メダカ体幹部の暗視野像とラマンイメージ (740nm)。ラマイメージは共に虹色素胞のグアニン分子を捉えている。

 

電子制御波長可変チタンサファイアレーザーという特殊なレーザー光源を用いて、生きたメダカの稚魚を観察したところ、眼球、胸鰭付近の虹色素胞からシグナルを捉えました(図2)。虹色素胞にはグアニンを含むことが知られており、ラマン分光法によるスペクトル解析の結果、グアニン分子のイメージであることが明らかになりました。このような無標識分子イメージングの技術は、将来的にはたとえばレチノイン酸や尿酸といった、生体内での分布が重要な意味を持つタンパク質以外の分子のイメージングに応用できる可能性があります。今後は、ビーム整形をより精密に制御し、高倍率かつ鮮明な画像を取得できるように顕微鏡を改良し、細胞レベルでの解析を行うことによって、組織の発生や細胞分化、形態形成にかかわる分子の機能やダイナミクスに迫る革新的な技術として期待できます。

 

「研究グループ」

本研究は、基礎生物学研究所 時空間制御研究室の野中茂紀准教授、大嶋佑介NIBBリサーチフェロー(現 愛媛大学医学部附属病院先端医療創生センター助教)、小林弘子技術職員と、同研究所バイオリソース研究室の成瀬清准教授、木村哲晃NIBBリサーチフェロー、関西学院大学理工学部生命科学科の佐藤英俊准教授らの共同研究です。

 

「発表雑誌」

米国科学雑誌「Optics Express」Vol. 20 Issue 15, pp.16195-16204 (2012)

Light sheet-excited spontaneous Raman imaging of a living fish by optical sectioning in a wide field Raman microscope

Oshima, Yusuke; Sato, Hidetoshi; Kajiura-Kobayashi, Hiroko; Kimura, Tetsuaki; Naruse, Kiyoshi; Nonaka, Shigenori

 

「研究サポート」

本研究は、科学技術振興機構 先端分析技術・機器開発プログラム、戦略的創造研究推進事業、文部科学省科学研究費補助金および堀科学芸術振興財団研究助成のサポートを受けて行われました。

 

「本件に関するお問い合わせ先」

基礎生物学研究所 時空間制御研究室

准教授 野中 茂紀

TEL: 0564-55-7590

E-mail: snonaka@nibb.ac.jp

 

「報道担当」

基礎生物学研究所 広報室

広報担当 倉田 智子

TEL: 0564-55-7628 FAX: 0564-55-7597

E-mail: press@nibb.ac.jp