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2011年06月18日
ペルオキシソームのタンパク質輸送に関わる植物特異的な新規因子を発見

植物細胞の中には、核や葉緑体など様々なオルガネラ(細胞内小器官)がありますが、これらのうち、ペルオキシソームは植物の発芽や光合成、種子形成に関わり、植物生長に必須なオルガネラです。しかし、植物細胞におけるペルオキシソーム形成の仕組みはあまり明らかにされていませんでした。今回、基礎生物学研究所・高次細胞機構研究部門の後藤志野大学院生(総合研究大学院大学)、真野昌二助教および西村幹夫教授らは、ペルオキシソームのタンパク質輸送に関わる植物特異的な新規因子を発見しました。この成果は、国際植物学専門誌 The Plant Cellの電子版にて発表されました。

[研究の背景]

植物の種子は、発芽する際に種子の中に貯めた脂肪を分解してショ糖というエネルギーを作り出します。この脂肪の代謝に大きく関わっているのがペルオキシソームです。ペルオキシソームに欠陥がある植物体では、このエネルギーを作り出せないので発芽することができずに枯死してしまいます。動物でも、ペルオキシソーム機能がなくなると胎児の段階で死んでしまったり、もしくは生まれても長くは生きられないという遺伝性疾患が報告されています。さらに、発芽後の植物は光合成により二酸化炭素を固定してエネルギーを作り出しますが、光合成を効率良く行うために必要な光呼吸という代謝系においてもペルオキシソームは貢献していますし、細胞にとって毒である活性酸素種をペルオキシソームが除去することで、環境からのストレスに耐えることができます。

核に保存されている遺伝子からペルオキシソームタンパク質が合成され、このタンパク質がペルオキシソームに輸送されることでペルオキシソームの機能は維持されています。しかも、植物ペルオキシソームは周りの環境や植物の発達段階に応じて、新しいタンパク質を運び入れることで異なる機能をもつことができるようになります。このように、ペルオキシソーム機能のため、ひいては植物が生きていくためにペルオキシソームへのタンパク質輸送は正しく機能しなければいけません。しかし、植物ペルオキシソームのタンパク質輸送メカニズムはあまり明らかにされていませんでした。

[研究の成果]

研究グループは、ペルオキシソームが緑色蛍光タンパク質(GFP)によって可視化された植物体を用いて、遺伝子をランダムに壊す実験を行い、タンパク質輸送メカニズムに関わる遺伝子、「APEM9」(APEMはaberrant peroxisome morphologyの略でペルオキシソーム形成異常の意)を発見しました(図1)。APEM9が働かないと、ペルオキシソームへのタンパク質輸送が滞り、ペルオキシソーム機能を失います。さらに、エネルギー源であるショ糖を人為的に与えてやらないと発芽できなかったり、発芽できても植物体が小さくなったりと、植物の生育にも重大な影響がみられ、APEM9は植物の生命維持に重要な遺伝子であることがわかりました(図2)。

APEM9は、タンパク質輸送に関わるPEX1-PEX6複合体をペルオキシソームに繋ぎ止める働きをします。このAPEM9遺伝子は植物でしか見つかりません。動物でも同様の機能をもつPEX26という遺伝子が見つかっていますが、興味深いことに、ふたつの遺伝子配列はほとんど似ていません。このような生物種間の違いは、生物に適したペルオキシソームの機能分化に伴って、ペルオキシソームを維持する仕組みが少しずつ変化していった結果ではないかと考えられます。

植物だけでなく、動物や様々な生物のペルオキシソーム形成メカニズムを比較することで、ペルオキシソームというオルガネラが真核細胞の中でどのように生まれ、各生物に適するように分化していったのかが明らかになると期待されます。また詳細なペルオキシソームの形成メカニズムが明らかになることで、ペルオキシソーム機能を効果的に利用することが可能となり、ストレスに強い作物や、光合成能力が向上した作物の作出などへの貢献も期待されます。

図1

図1:野生型とAPEM9欠損株における緑色蛍光タンパク質 (GFP) の局在の様子
野生型では、ペルオキシソームへのタンパク質輸送が正常に行われるので、輸送されたGFPによってペルオキシソームが粒状の構造として観察される。APEM9欠損株では、タンパク質輸送が異常となっているためGFPがペルオキシソームへ輸送されず細胞質に留まってしまう。

図2

図2:APEM9欠損株では植物の生長が抑制される
APEM9欠損株では、ペルオキシソーム内の様々な代謝系の活性が低下し、ペルオキシソームが十分に機能しない。その結果、APEM9欠損株は野生株に比べ矮性となってしまう。

[発表雑誌]

「The Plant Cell」(米国植物生物学会発行の学術雑誌 プラントセル)
電子版に先行掲載

論文タイトル:
"Arabidopsis ABERRANT PEROXISOME MORPHOLOGY9 Is a Peroxin That Recruits the PEX1-PEX6 Complex to Peroxisomes."

著者:Shino Goto, Shoji Mano, Chihiro Nakamori and Mikio Nishimura

[研究サポート]

本研究は、文部科学省科学研究費補助金のサポートを受けて実施されました。

[本件に関するお問い合わせ先]

基礎生物学研究所高次細胞機構研究部門
教授: 西村 幹夫 (ニシムラ ミキオ)
〒444-8585 愛知県岡崎市明大寺町字西郷中38
Tel: 0564-55-7500
E-mail: mikosome@nibb.ac.jp
ホームページ http://www.nibb.ac.jp/celmech/jp/

[報道担当]

基礎生物学研究所 広報国際連携室 
倉田 智子
Tel: 0564-55-7628
Fax: 0564-55-7597
E-mail: press@nibb.ac.jp