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大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

基礎生物学研究所

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プレスリリース詳細

2010.11.24

マメ科植物において、根粒の数と植物の形作りを同時に制御する遺伝子を発見

基礎生物学研究所の宮澤日子太大学院生および川口正代司教授らの研究グループは、マメ科植物において、根粒の数と植物の形の両方を制御する遺伝子を 発見しました。マメ科植物が養分の少ない荒れ地でも生長できる秘訣は、根に根粒を形成し、内部に根粒菌と呼ばれる微生物を住まわせて共生し、その微生物の 能力を上手く利用して空気中の窒素から栄養を作り出すことが出来るからです(この能力は、窒素固定能と呼ばれます)。根粒は、マメ科植物が進化の過程で獲 得した特殊な共生器官です。今回の成果は、根粒の数の制御と植物の形づくりの機構を直接つなぐ重要な知見であり、将来的には荒れ地でも良く育つ植物の開発 など、食料問題や環境問題の解決への貢献が期待されます。この成果は、発生生物学専門誌 Development (デベロップメント)電子版にて英国時間2010年11月19日に発表されます。

[本研究の成果]

研究グループはマメ科植物のミヤコグサ(図1)を用いて、遺伝子をイオンビーム照射(注1)によってランダムに壊す実験を行い、クラビア(KLAVIER)遺伝子(注2)を 発見しました。クラビア遺伝子が壊れると、根粒の数が通常の3〜4倍に増えることがわかりました(図2)。根粒が付かなければ窒素固定は出来ません。一方 で、根粒が多く付きすぎてしまうと根粒の形成自体や窒素固定に多くのエネルギーを費やしてしまい植物が上手く育たないことが知られています。実験結果よ り、クラビア遺伝子には根粒の数を抑制する働きがあり、この遺伝子によって根粒の数が適正に制御されていることがわかりました。さらにこのクラビア遺伝子 は、根粒の数だけでなく、花が咲く時期や、茎やサヤの形、花の数などの植物の形を決める機能があることが分かりました(図3)。根粒の数を制御する遺伝子 はいくつか知られていますが、根粒の数と植物の地上部の形の両方を制御する遺伝子の発見は初めてのことです。

マメ科植物は、大豆やエンド ウなど、古来より荒れ地でも良く育つ作物として、人々の生活を支えてきました。また、日本では、田にマメ科植物のレンゲ を植え、それを田植えの前に土に剥きこむことで肥料として活用してきました。今後、クラビア遺伝子の働きをより詳細に解明していくことで、マメ科植物の能 力の遺伝子レベルでの理解が深まると考えられます。マメ科植物の持つ窒素固定能力やバイオマスの向上によって、食料問題や環境問題の解決に貢献することが 期待されます。

用語解説

注1)イオンビーム照射法・・・イオンの粒子(この研究ではヘリウムイオン)を加速器で加速して植物に照射することで、DNAに変化を与え、効率的に突然変異を誘発する手法。
注2)クラビア(KLAVIER)はドイツ語でピアノという意味。この遺伝子は植物の多様な器官形成に適正な調律を与える働きがある。

 

図1
 

図1:マメ科植物のミヤコグサ
日本に自生する野草として親しまれている。研究の世界では、遺伝子解析に優れたマメ科植物として、微生物との共生研究などに広く使われている。


図2

 

図2:正常なミヤコグサの根粒(左)と、クラビア遺伝子が壊れた変異体の根粒(右)
クラビア遺伝子が壊れると、根にできる丸い共生器官(根粒)が過剰に形成される。このことから、クラビア遺伝子が、根粒の数を適正な数に制御する機能を持つことが明らかとなった。


 

図3

 

図3:クラビア遺伝子が壊れた変異体の地上部の変化
クラビア遺伝子が壊れた変異体では、背丈が短くなり、しばしば、二つに枝分かれをする(左)。また、クラビア遺伝子が壊れた変異体では、茎はしばしば帯状 に太くなり(中央)、しばしばサヤの数が増加する(右)。このことから、クラビア遺伝子は、根粒の数だけでなく、植物の形の制御にも関わっていることがわ かった。


[発表雑誌]

発生生物学専門誌 Development (デベロップメント)
電子版にて英国時間2010年11月19日に発表

論文タイトル:
"The receptor-like kinase, KLAVIER, mediates systemic regulation of nodulation and non-symbiotic shoot development in Lotus japonicus"

著 者:Hikota Miyazawa, Erika Oka-Kira, Naoto Sato, Hirokazu Takahashi, Guo-Jiang Wu, Shusei Sato, Masaki Hayashi, Shigeyuki Betsuyaku, Mikio Nakazono, Satoshi Tabata, Kyuya Harada, Shinichiro Sawa, Hiroo Fukuda, Masayoshi Kawaguchi

[研究グループ]

本研究は基礎生物学研究所の川口正代司教授率いる研究グループ が中心となって、かずさDNA研究所の田畑哲之部長、農業生物資源研究所の原田久 也チームリーダー、東京大の澤進一郎准教授(現・熊本大教授)、福田裕穂教授、中園幹生准教授(現・名大教授)らの研究グループの協力を得て行われまし た。

[研究サポート]

本研究は、文部科学省科学研究費補助金、科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業、日本学術振興会科学研究費補助金のサポートを受けて行われました。

[本件に関するお問い合わせ先]

基礎生物学研究所 共生システム研究部門
教授 川口 正代司(カワグチ マサヨシ)
Tel: 0564-55-7564(研究室)
E-mail: masayosi@nibb.ac.jp

大学院生 宮澤 日子太(ミヤザワ ヒコタ)
Tel: 0564-55-7563(研究室)
E-mail: hikota@nibb.ac.jp

[報道担当]

基礎生物学研究所 広報国際連携室
倉田 智子
Tel: 0564-55-7628
Fax: 0564-55-7597
E-mail: press@nibb.ac.jp