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2010年07月22日
アヤメやネギがもつ、裏しかない葉「単面葉」の形作りの仕組みを解明

葉は光を受けて栄養分を作り出す光合成をおこなう場所です。多くの光を集めて効率の良い光合成をおこなうために、葉はふつう、表側と裏側の性質をもつ平たい形になるのが特徴で、このような葉を「両面葉」といいます。一方、アヤメやネギといった一部の植物は、「単面葉」という裏側の性質しか持たない葉をつくります。この単面葉の形作りの仕組みはこれまで不明でしたが、今回その基本的な仕組みが世界で初めて明らかになりました。基礎生物学研究所の山口貴大助教と東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻の塚谷裕一教授らの研究グループは、単面葉では、葉の裏側の性質を決める遺伝子が葉全体で働くことで、裏側の性質しかもたなくなることを発見しました。さらに単面葉では、両面葉とは異なる仕組みで平たい形の葉をつくることを明らかにし、DROOPING LEAF (ドゥルーピングリーフ、略号DL) という遺伝子が、単面葉を平たくする働きを持つことを発見しました。この成果は、米科学雑誌 The Plant Cell(プラントセル)誌に掲載されました。

[研究の成果]

植物の葉の形は様々ですが、多くの光を集めるために、葉は平たい形になるのが一般的です。また葉の表面や内部の性質は、一般的に表側と裏側で異なっています。表側は光を受ける側で、その表面や内部の構造は光合成をおこなうように特殊化しています。一方裏側には、気孔と呼ばれる小さな穴が多く存在するなど、葉のガス交換を行う場となっています。このような一般的な葉を「両面葉」といいます(図1)。一方、アヤメやネギ、ショウブなど、一部の単子葉植物は「単面葉」という裏側の性質しか持たない葉をつくることが知られています(図1)。

最近のシロイヌナズナ等のモデル植物を用いた研究により、葉は表側と裏側の境界部分が伸長することで初めて平たい形になれるという説が唱えられています。実際、葉の表裏の性質を決める遺伝子が壊れたりして葉が表裏の性質を失うと、葉は伸長することができないために丸い断面をもつ棒状の形になります(図1)。これはシロイヌナズナだけでなく、タバコやキンギョソウなど多くの植物で確かめられています。つまり葉が平たい形になるためには、ふつうは葉が表裏の両面性を獲得することが必要です。一方、単面葉では、中にはネギのように丸い断面の葉をつくる植物もありますが、多くの場合、裏側の性質しか持たないにもかかわらず、アヤメのような平たい形の葉をつくります(図1)。つまり葉を平たくする仕組みは両面葉と単面葉では異なっていて、アヤメなどの単面葉は、葉の表裏の両面性を必要としない独自の仕組みで葉を平たくしていると考えられます。

それではなぜ単面葉は裏側の性質しか持たないのでしょうか?そしてどのような仕組みで平たい葉をつくるのでしょうか?

山口・塚谷らは、単面葉の形作りの仕組みを遺伝子のレベルで明らかにするために、単面葉を持つイグサ科のコウガイゼキショウ(図2左)という植物に着目しました。このコウガイゼキショウは、国内の湿地や水田でよく見られる植物で、小さくて育てやすく、種をつくるまでの期間が短いといった、実験材料として適した様々な特徴をもっています。

まず研究グループは、単面葉が裏側しか持たない原因を調べました。両面葉では、葉の表側の性質を決める遺伝子(注1は葉の表側で、裏側の性質を決める遺伝子(注2は裏側ではたらき、その結果、表裏の両面性を持つ葉がつくられることが知られています(図3)。そこで単面葉をもつコウガイゼキショウから、これらの遺伝子を単離してそのはたらき場所を調べた所、単面葉では、葉の裏側の性質を決める遺伝子が葉全体ではたらいていることを発見しました(図3)。つまり単面葉では、葉の裏側を決める遺伝子のはたらきが、表側の性質を決める遺伝子のはたらよりも強くなることで、葉が裏側化するのです。

次に研究グループは、単面葉が平たくなる仕組みを解明するために、コウガイゼキショウに加えて、ハリコウガイゼキショウ(図2右)というイグサ科植物にも注目しました。このハリコウガイゼキショウは、コウガイゼキショウにとても近い仲間ですが、コウガイゼキショウがアヤメのように平たい単面葉をつくるのに対して、ハリコウガイゼキショウはネギのように丸い断面の単面葉をつくります(図4)。その名前も葉が平たくならず、針のような形になることに由来しています。そこでこれら2つの植物の葉ではたらきが異なる遺伝子を探した所、DROOPING LEAF (DL)(注3という遺伝子のはたらきが異なっており、この DL 遺伝子はコウガイゼキショウでは葉を平たくするはたらきを持つことがわかりました。一方、ハリコウガイゼキショウでは、この DL 遺伝子があまりはたらかないことで、葉が丸くなることがわかりました(図4)。

興味深いことに、この DL 遺伝子は、両面葉では、葉の中肋という組織を作るはたらきを持つことがわかっています(図4)。多くの葉は、中央の部分が太くてしっかりとした構造になっていて、その構造を中肋といいます。DL 遺伝子は両面葉では中肋の形成、単面葉では平たい葉の形成という、一見異なるはたらきをしているように見えますが、両面葉の中肋も、平たい単面葉も、葉が作られる過程で、葉が厚さを増すことによりつくられます。つまり単面葉は、両面葉で中肋をつくる DL 遺伝子のはたらきを上手く利用することで、裏側しかもたない葉を平たくする仕組みを進化させたことが明らかになりました。

今後さらに詳しいメカニズムを解明して研究成果を応用すれば、植物の葉の形を巧みに操作することが可能となり、光合成機能の上昇した作物や、新しい形の葉を持つ観葉植物の作出といった技術開発への貢献も期待できます。

 


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図1:両面葉と単面葉の構造
葉の外観(上)と横断面の構造の模式図(下)



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図2:平たい単面葉のコウガイゼキショウ(左)と丸い単面葉のハリコウガイゼキショウ(右)



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図3:両面葉と単面葉における、葉の表裏の性質を決める遺伝子のはたらき場所
単面葉では、葉の裏側の性質を決める遺伝子(ARF3 遺伝子)が葉全体ではたらくことで、葉が裏側化する。

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図4:単面葉が平たくなるしくみ
平たい単面葉では DL 遺伝子が葉を平たくするはたらきを持つが、丸い単面葉では DL 遺伝子があまりはたらかない。両面葉では DL 遺伝子は葉の中肋を作るはたらきを持つ。単面葉と両面葉で DL 遺伝子のはたらきは違うように見えるが、どちらの場合も葉の厚さを増やすこと(矢印)がその役目である。

注釈
(注1 HD-ZIPIII(エイチディージップスリー)遺伝子
(注2 ARF3(アーフスリー)遺伝子
(注3 DROOPING LEAF,DL(ドゥルーピングリーフ、ディーエル)遺伝子

[発表雑誌]

米科学誌 The Plant Cell(プラントセル)2010年7月20日号掲載

論文タイトル:
"Genetic Framework for Flattened Leaf Blade Formation in Unifacial Leaves of Juncus prismatocarpus"
「コウガイゼキショウの単面葉を平面化する遺伝子メカニズム」

著者:Takahiro Yamaguchi, Satoshi Yano, Hirokazu Tsukaya

[研究グループ]

本研究は、基礎生物学研究所(山口貴大助教、矢野覚士研究員、塚谷裕一客員教授)、東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻(塚谷裕一教授)の共同研究として実施されました。

[研究サポート]

本研究は文部科学省科学研究費補助金、住友財団のサポートを受けて実施されました。

[本件に関するお問い合わせ先]

<研究に関すること>
基礎生物学研究所 植物発生遺伝学研究部門
助教:山口 貴大 (ヤマグチ タカヒロ)
Tel: 0564-55-7513 (研究室)
E-mail: tyama@nibb.ac.jp

東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻
教授:塚谷 裕一 (ツカヤ ヒロカズ)
(基礎生物学研究所 植物発生遺伝学研究部門 客員教授)
Tel: 03-5841-4047(研究室)
E-mail: tsukaya@biol.s.u-tokyo.ac.jp

[報道担当]

基礎生物学研究所 広報国際連携室
倉田 智子
Tel: 0564-55-7628
E-mail: press@nibb.ac.jp

東京大学大学院理学系研究科 広報・科学コミュニケーション
横山 広美
Tel: 03-5841-7585
E-mail: kouhou@adm.s.u-tokyo.ac.jp