プレスリリース

Homeニュースプレスリリース一覧 > プレスリリース
2010年05月21日
成体メダカの卵巣で卵を継続的につくり出す幹細胞のゆりかごを発見
~魚類の高い繁殖能力の基盤も明らかに~

生き物にとって、自分たちの子孫を残していく事は最も基本的で重要な事柄です。多くの動物のオスでは、幹細胞が沢山の精子を一生涯にわたって作り続けることが明らかとなっています。一方で、メスが卵を作り出すメカニズムについては、不明な点が多く残されています。基礎生物学研究所の中村修平研究員、田中実准教授らは、メダカを用いた研究により、メダカ成体のメスの卵巣内に、精巣と似た構造があり、その“ゆりかご“に卵を作り出す幹細胞が存在することを発見、幹細胞が卵を継続的に作り出していることを世界で初めて明らかにしました。ほ乳類では、卵の元になる細胞の増殖は出生前に止まる、という考え方が定説です。今回の成果は、脊椎動物で初めて、卵巣内に卵をつくる幹細胞が存在することを示したものです。また、魚類が沢山の卵を作り続けることができる仕組みの謎が明らかになりました。この成果は、2010年5月21日に米国科学雑誌サイエンス(電子版)にて発表されます。

<広報担当より発表のポイント>

・メダカの卵巣に卵をつくる幹細胞が存在し、成体になっても卵を継続的に作り続けていることを脊椎動物で初めて発見。子孫を作り出す仕組みの理解に大きく貢献。
・ 卵巣にも精巣と似た構造があることを発見。性分化・性転換の仕組みの理解の手がかりになると期待。
・ 水産分野での、魚類の養殖や育種の基盤知見としても重要な発見。
 

[研究の成果]

中村・田中らは、Sox9という元々オスの精巣で働くことが知られていた遺伝子を目印として、この遺伝子が働いている細胞が蛍光で光るようにしたメダカを作成し、生殖腺の観察を行いました(図1)。すると、予想に反して、オスの精巣だけでなく、メスの卵巣の表面にも光る細胞が見つかり、卵巣の表面に今まで誰も知らなかった、精巣と似ているチューブ様のネットワーク構造があることを発見しました。さらに、このネットワーク状の構造の中に、卵のもとになる細胞が居ることを見つけました(図2)。

研究グループは、この構造が「卵の幹細胞のゆりかご」ではないかと予想し、その過程を観察しました。卵のもとと思われる細胞にGFP(緑色蛍光タンパク質)で目印を付けました。すると目印を付けた細胞から、卵が継続的に作り出される過程が見いだされ、メスの卵巣にも卵の幹細胞が存在することが示されました(図3)。卵の幹細胞の存在が明確に示されたのは、脊椎動物で初の成果です。

メダカは春から秋にかけて毎日継続的に卵を産み続けることができるなど、「多産」であることが知られています。今回の成果は、卵を産み続けることができる仕組みの謎を一つ明らかにしました。また、卵巣にも精巣と似た構造があることが判ったことから、性分化・性転換のしくみの理解も大きく進むと思われます。さらに、卵巣の中での幹細胞の居場所が特定されたことで、卵の幹細胞を取り出したり、操作したりする可能性がひらけ、育種分野などでの卵の幹細胞研究や応用が飛躍的に進むことが期待されます。



100521fig1.jpg

図1:Sox9遺伝子が働いている細胞が光ったメダカ


100521fig2.jpg

図2:卵巣の表面に見つかった精巣と似た構造
左:卵巣全体を背側から見た写真。チューブ様のネットワーク構造(ovarian cord)(緑)が蛍光で識別できる。右上:ネットワークの拡大写真。卵になりかけの細胞(赤)が、ネットワーク中の所々でかたまって存在(卵の幹細胞のゆりかご [germinal cradle])している。右下:ゆりかごの拡大写真。緑色のゆりかごに赤色の卵になりかけの細胞がいる。


100521fig3.jpg

図3:継続的に卵が作り出される様子(緑色のGFPの目印が付いた卵が継続的に作り出されている。)


[発表雑誌]

米科学雑誌 Science(サイエンス)電子版 2010年5月20日掲載(日本時間5月21日)

論文タイトル:
"Identification of Germline Stem Cells in the Ovary of the Teleost Medaka"
「硬骨魚メダカ卵巣で生殖幹細胞を同定 」

著者:Shuhei Nakamura, Kayo Kobayashi, Toshiya Nishimura, Shin-ichi Higashijima, and Minoru Tanaka

[研究グループ]

基礎生物学研究所の田中実准教授の率いるグループ(中村修平研究員、小林佳代研究員、西村俊哉大学院生[総合研究大学院大学])が中心となって、生理学研究所の東島眞一准教授の協力を得て行われました。

[研究サポート]

本研究は、文部科学省科学研究費補助金、文部科学省バイオリソース(NBRP)基盤技術開発、大幸財団、総合研究大学院大学のサポートを受けて行われました。

[本件に関するお問い合わせ先]

基礎生物学研究所 生殖遺伝学研究室
准教授 田中 実(タナカ ミノル)
Tel: 0564-59-5851(研究室)
E-mail: mtanaka@nibb.ac.jp

[報道担当]

基礎生物学研究所 広報国際連携室
倉田 智子
Tel: 0564-55-7628
E-mail: press@nibb.ac.jp