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2009年08月11日
マウス胚組織の内側、外側を決める遺伝子 prickle1

私たちの体の形は、始まりはたった一つの細胞からなる受精卵の丸い形です。細胞の数が増え、複雑な形づくりの過程を経て、それぞれの生き物の形がつくられていきます。基礎生物学研究所 形態形成研究部門の田尾嘉誉研究員、上野直人教授らの研究グループは、マウスを用いて、prickle1(プリックル1)という遺伝子が、ごく初期(着床直後の頃)の体の形作りに必須であることを明らかにしました。prickle1 遺伝子を破壊したマウスの胚は、発生初期にエピブラスト(原始外胚葉) と呼ばれる組織で通常見られる内側、外側の特徴が失われ、死に至ることが明らかとなりました。本研究は、基礎生物学研究所と理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター動物資源開発室との共同研究により行われました。研究の詳細は米国科学アカデミー紀要(PNAS) 電子版8月25日号で発表されます。

[研究の背景]

 マウス胚は着床後、将来胚をつくるエピブラスト(原始外胚葉) と呼ばれる一層の組織が筒状になり、その外側は別の一層の組織、原始内胚葉によって覆われます(図1)。この時期のエピブラスト細胞やその核は胚の内側と外側を結ぶ軸に沿って細長く伸びています(図2A)。また、細胞分裂の際にそれらの細胞は胚の内側に移動して丸くなることが知られています。しかし、そのしくみについてはよくわかっていませんでした。同グループは今回の研究で、prickle1遺伝子を破壊したマウス(prickle1 ノックアウトマウス) を作製し、prickle1遺伝子がエピブラスト層の内外を決める重要な役割をもっていることを明らかにしました。

[研究の成果]

 prickle1遺伝子を破壊したノックアウト胚では着床後から異常がみられ、その胚は直後に死に至ることがわかりました。また、マウスの体の頭と尻尾を決めるこの時期の胚で本来見られる、将来の頭部側への細胞移動が見られないこともわかりました。なぜ、こ のような異常が生じるのか詳しく調べたところ、prickle1ノックアウト胚では、エピブラスト層の内外の特徴(細胞極性)が失われていることがわかりました。エピブラスト層の内側と外側にはっきりと分かれて存在するいくつかのタンパク質の区画が乱れるほか、本来胚の内側に移動して分裂するはずの細胞が胚のいたるところで分裂し、同時に細胞分裂方向が不規則になることがわかりました(図2B)。prickle1遺伝子はハエからヒトまで広く生物界に存在する遺伝子ですが、今回の研究でマウスの初期胚においてエピブラスト層の「内外」を決める役割をもっていることが初めて発見されました。

[今後の展開]

 今回の研究によって、prickle1遺伝子が、体の形づくりのごく初期の段階で、「内外」の向きを決めていることが明らかになりました。哺乳類の体の形作りの初期の段階の過程は、胚が小さく、子宮の中で育つ為観察が難しく、まだまだ多くの事柄が分かっていません。このような遺伝子の働きを一つ一つ解明することによって、私たちの体がどのように出来上がるのかを理解することが出来るようになります。また今回、組織の内外を決めるしくみが明らかになったことは、ES細胞やiPS細胞から機能を持った組織、器官をつくるために役立つものと期待されます。

090811fig1.jpg図1:マウスの初期胚の模式図
着床直後の頃のマウスの初期胚はまだ頭や胴などの構造は出来ておらず、将来胚(体全体)になる部分と胎盤になる部分に分かれている。将来胚になる部分はこの時期、エピブラスト(原始外胚葉)と原始内胚葉からなる。

090811fig2.jpg図2:エピブラストの形態異常
正常胚のエピブラストの細胞は内側から外側に向かって細長く伸びており、細胞分裂は主に内側で起こる(A)。prickle1ノックアウト胚では細胞は丸くなり、細胞分裂がいたるところで起こる(B)。

[発表雑誌]

Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
米国科学アカデミー紀要電子版 8月25日号 掲載

論文タイトル:
"Mouse prickle1, the homolog of a PCP gene, is essential for epiblast apical-basal polarity"

著者:Hirotaka Tao, Makoto Suzuki, Hiroshi Kiyonari, Takaya Abe, Toshikuni Sasaoka, Naoto Ueno(田尾嘉誉、鈴木誠、清成寛、阿部高也、笹岡俊邦、上野直人)

[研究グループ]

本研究は、基礎生物学研究所 上野直人教授らのグループが中心となり、理化学研究所再生科学総合研究センターとの共同研究により行われました。

[研究サポート]

本研究は文部科学省科学研究費補助金のサポートを受けて実施されました。

[本件に関するお問い合わせ先]

基礎生物学研究所 形態形成研究部門
教授 上野 直人 (うえの なおと)
Tel: 0564-55-7570 (研究室)
E-mail: nueno@nibb.ac.jp
URL: http://www.nibb.ac.jp/morphgen/

[報道担当]

基礎生物学研究所 広報国際連携室
倉田 智子
Tel: 0564-55-7628
E-mail: press@nibb.ac.jp