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大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

基礎生物学研究所

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2009.03.31

大人びた葉の性質をつくる仕組みを発見

基礎生物学研究所 植物発生遺伝学研究部門の塚谷裕一客員教授らの研究グループは、シロイヌナズナというアブラナ科の植物を用いて、植物が年相応の葉をつける、「異形葉性」と呼ばれる現象の背景となる仕組みを新たに発見しました。研究グループは、本来幼弱な1枚目の本葉が、より成熟した葉の性質を持つという変異体に注目し、詳しい解析を行いました。その結果、成熟した葉は、細胞数が増えると共に、一つ一つの細胞体積は減っているという、新たな事実を発見し、また、この現象が特別なRNAによって制御されていることを明らかにしました。この成果は英国の科学雑誌デヴェロップメント誌(Development)にて発表されました。

[研究の背景]

植物の葉の形は種類によって様々ですが、一つの個体の中でも、株が若い時の葉と、年を取った時の葉の形が異なるという現象が、多くの植物で知られています。例えば、ヒマワリの種を蒔くと、双葉のあと、初めは小さくて細い葉が出てきますが、やがて大きくて丸みのある葉を出すようになります。このように、植物がその齢や生理条件によって異なる形・サイズの葉を付ける現象は、異形葉性と呼ばれています。動物や昆虫が年相応の姿に変化する機構はホルモンの作用などとして解明が進んでいますが、植物が年相応の姿に変化する機構はよく分かっていませんでした。

[研究の成果]

基礎生物学研究所 植物発生遺伝学研究部門の塚谷裕一客員教授らの研究グループは、シロイヌナズナというアブラナ科の植物を用いて、この異形葉性の背景となる仕組みを新たに発見しました。

シロイヌナズナでも、個体が大きくなるにつれて、異形葉性により、次第に大きな葉を付けるようになります。このとき、後から出る葉ほど、葉の大型化に伴い細胞の数が増えることは推察されていましたが、細胞一つ一つの大きさが変化するとは思われていませんでした。

090331fig1.jpg図1: シロイヌナズナの葉の大きさと形の変化
シロイヌナズナの葉を、葉が付く順番に並べている。右の2枚は子葉(双葉)。他は本葉。個体が大きくなるにつれて次第に大きな葉をつけるようになる。

今回の発見のきっかけは、通常よりも、より早い時期により大きな葉をつけるシロイヌナズナの突然変異体です。この変異体では、一枚目の本葉が、通常よりも細胞の数が多いのに、細胞の体積は逆に小さくなっていました。 不思議に思って、正常な植物の方を改めて調べてみると、後から出る葉ほど、葉の細胞数が増えるのと反対に、細胞1つ1つの体積は小さくなっていくことがわかりました。シロイヌナズナでは、双葉の次に出てくる1枚目の本葉と3枚目の本葉を比べると、細胞数は2倍以上になり、一つの細胞の大きさは約2/3程に小さくなります。実は今回見つかった変異体は、双葉のあとの1枚目に出てくる葉が、もっと後の、3枚目に出る葉のような性質を持っていたのです。

090331fig2.jpg図2: シロイヌナズナの正常な株(左)と今回解析した突然変異体(右)
矢じりで示した葉は1枚目の本葉。正常株の1枚目の本葉と比べて、突然変異体の1枚目の本葉はより大きい。突然変異体の葉では、正常よりも細胞数が増えるだけでなく、細胞一つ一つの体積は小さくなっていることがわかった。

詳しい解析により、これらの変異体ではある特別なRNA(miR156)の働きが異常となっていることがわかりました。これまで、植物の葉が大人っぽく見える仕組みとしては、この特別なRNAによる仕組みの他に、もう一つ、別のRNA(tasiR)を使う仕組みがあることが知られていましたが、共に、あくまでも葉の外見の大人らしさを演出する遺伝経路とされてきました。

今回の発見は、その外見の大人らしさの制御の中には、細胞の数と大きさという、中身の方を大人相応に変える仕組みもある、ということを示すものです。逆に言うと、外見だけを大人らしくするだけで、中身は子どものままにとどめてしまうしくみもある、ということになります。

塚谷客員教授は「人間の若者と同じで、植物の葉も、外見を大人らしくする仕組みがある一方で、中身を大人相当にする仕組みはそれとは別にあるということです」と述べています。

この分野の研究が進めば、植物を早い段階で、より早熟に育てることができるようになり、作物を効率よく育てられるようになるかもしれません。この研究成果は、英国の権威ある科学雑誌、デヴェロップメント誌(Development) に掲載されました。

[発表雑誌]

科学雑誌 Development (デヴェロップメント) (2009年3月15日号)

論文タイトル:
"The more and smaller cells mutants of Arabidopsis thaliana identify novel roles for SQUAMOSA PROMOTER BINDING PROTEIN-LIKE genes in the control of heteroblasty"

著者:Takeshi Usami, Gorou Horiguchi, Satoshi Yano, and Hirokazu Tsukaya

[研究グループ]

本研究は、基礎生物学研究所 塚谷裕一客員教授率いる研究グループによって実施されました。

[研究サポート]

本研究は文部科学省科学研究費補助金および東レ科学技術研究助成のサポートを受けて実施されました。

[本件に関するお問い合わせ先]

基礎生物学研究所 植物発生遺伝学研究部門
(東京大学大学院 理学系研究科 教授)
客員教授: 塚谷 裕一 (ツカヤ ヒロカズ)

Tel: 03-5841-4047( 研究室)
E-mail: tsukaya@biol.s.u-tokyo.ac.jp
URL: http://www.nibb.ac.jp/bioenv2/indexj.html

[報道担当]

基礎生物学研究所 連携・広報企画運営戦略室
倉田 智子
Tel: 0564-55-7628
E-mail: press@nibb.ac.jp