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2007年10月09日
卵や精子のもとの細胞(生殖細胞)は性分化に大きな役割をはたす

基礎生物学研究所の黒川紘美 元大学院生と田中実 准教授らは、卵や精子のもとになる細胞である生殖細胞がなくなるメダカを作成し、生殖細胞が性分化に果たす役割を解析しました。その結果、生殖細胞をまったく持たないメダカは、遺伝的に決まっている性別にかかわらず外見がオスの形態になることが明らかになりました。これは生殖細胞が卵や精子になるだけでなく、身体がオス・メスに分かれていく過程(性分化)にも積極的に関与することを示しています。動物の性分化および性転換の分子メカニズム解明につながる成果として注目されます。この成果は米国科学アカデミー紀要オンライン版にて2007年10月9日-13日の間に発表されます。

[研究の背景]

メダカはヒトと同様に、性染色体によって性が決定することが知られており、Y染色体を持つ個体が雄となる。また、生殖腺(卵巣・精巣)は将来の卵や精子の元となる生殖細胞と、生殖腺自体を構成する細胞(生殖腺体細胞)とから構成される。生殖細胞は卵または精子になる共通の細胞であり、始めはその両方に分化する能力を持つ。生殖細胞は卵巣または精巣の中で生殖腺体細胞によって制御され、それぞれの性に従って卵や精子が形成されることから、これまでは、生殖細胞は身体の性に従って受動的に卵または精子になると考えられてきた。

[研究の内容]

基礎生物学研究所の黒川紘美 元大学院生と田中実 准教授らは、メダカの将来の卵や精子となる元の細胞(生殖細胞)を可視化し、その位置を生きたまま追跡する方法を開発した。併せて、生殖細胞を”迷子”にすることで卵巣や精巣の中に生殖細胞がまったく無い状態を作り出し、空っぽの生殖腺を持つメダカを作成単離することに成功した。このメダカを解析したところ、以下のような結果が得られた。
1: Y染色体を持たずに遺伝的にはメスのメダカでも、生殖細胞を持たないと、オス型の性ホルモンが分泌され、身体全体がオスの形態を示し、メスからオスへの性転換が生じることが判明した。このことから、生殖細胞はメスへの性分化に必須であることが明らかとなった。
2: 生殖細胞を持たない生殖腺は遺伝的なオス・メスに関わらず、中空の管状の構造を示し、卵巣独自の特徴や精巣独自の特徴を示さないことが判明した。このことから、生殖腺の性特異的な構造(すなわち卵巣構造や精巣構造)をつくる為には生殖細胞が必須であることが明らかとなった。
以上のことから、生殖細胞は単に卵や精子になるだけでなく、身体の性分化に積極的に関わっていることが明らかとなった。

 

071003-1.jpeg図:遺伝的に決まっている性にかかわらず、オスの形態となった”生殖細胞を持たないメダカ”たち

[今後の展望]

当研究グループが今年5月に報告した、生殖細胞が過剰に増殖するメダカ突然変異体「hotei」では今回とは逆の「オスからメスへの性転換」が起きていた。(hoteiの詳細はこちらをご覧下さい。)今回は生殖細胞を無くすことで「メスからオスへの性転換」がおき、この両者の結果には矛盾が無い。研究グループは、生殖細胞はメス型の性格、体細胞はオス型の性格を持ち、このバランスが変わることによって動物の性転換などは起こるのではないかという仮説のもと、性の原理の分子機構の全容解明につなげたいと考えている。

[発表雑誌]

Proceedings of the National Academy of Science of the United States of America (米国科学アカデミー紀要)
(2007年10月9日-13日 の間に オンライン版にて発表されます)

論文タイトル:
"Germ cells are essential for sexual dimorphism in the medaka gonad"
「生殖細胞はメダカ生殖腺の性的二型性に重要な役割を果たす」

著者:Hiromi Kurokawa, Daisuke Saito, Shuhei Nakamura, Yuko Katoh-Fukui, Kohei Ohta, Takashi Baba, Ken-ichiro Morohashi and Minoru Tanaka
 (黒川紘美、斉藤大助、中村修平、福井由宇子、馬場崇、諸橋憲一郎、田中実)
筆頭著者の黒川紘美は現在、日本科学未来館にて科学を伝える仕事に携わっています。

[研究グループ]

本研究は、基礎生物学研究所 本研究は基礎生物学研究所・生殖遺伝学研究室(黒川紘美・斎藤大助・中村修平・田中実)が中心となり、性差生物学研究部門の協力を得て行われました。

[本件に関するお問い合わせ先]
基礎生物学研究所 生殖遺伝学研究室
准教授: 田中 実(タナカ ミノル)
Tel: 0564-59-5851 (研究室)
E-mail: mtanaka@nibb.ac.jp
URL: http://www.nibb.ac.jp/reprogenetics/

[報道担当]

基礎生物学研究所 連携・広報企画運営戦略室
倉田 智子
Tel: 0564-55-7628
E-mail: press@nibb.ac.jp