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大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

基礎生物学研究所

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2006.11.07

シダの超高感度光センサーの仕組み解明と,種子植物への導入 ~室内等の薄暗い環境に適応した植物の創出へ向けて~

多くのシダ植物は、一般の植物が光の量が足りないために健全に生育することができない林床などの薄暗い場所で旺盛に繁茂することができます。これを可能にしているのは、シダ植物が持っている高感度の光センサーです。シダ植物はこのセンサーで微弱な光を捉え、葉や葉緑体の配置を調節して、光を最も有効に利用できるようにしています。今回鐘ヶ江らは、このセンサータンパク質PHY3が赤色光センサー・青色光センサーの両方の機能を併せ持つことを示し、さらに各センサーの相乗効果で光感度が上昇することで、非常に弱い光に応答できることを明らかにしました。この超高感度光センサーは、普通の花を咲かせる植物には存在しませんが、シロイヌナズナに導入しても働くことがわかりました。この高感度光センサーを利用することで、多くの植物の光感度を上昇させることが可能になるかもしれません。そうなれば、室内などの比較的暗い光環境下でもいろいろな植物を栽培することが可能になり、室内緑化などの応用面への展開が期待されます。本研究は首都大学東京大学院理工学研究科と基礎生物学研究所との共同研究として実施されました。研究の詳細は、2006年11月6-10日の間に、米国科学アカデミー紀要(PNAS)オンライン版で先行発表されます。

[背景]

植物は外界の光環境を、赤色光受容体(フィトクロム)と青色光受容体(クリプトクロムやフォトトロピン)によって感知している。これらの光受容体はそれぞれ個別のタンパク質であり、赤色光と青色光の情報を独立に感知している。シダ植物は、これらの光受容体に加えてPHY3という固有の光受容体を持っている。PHY3は、N末端側にフィトクロムの発色団結合部位を、C末端側に青色光受容体フォトトロピン全長を持つ構造をしており(図1)、吸収波長域を異にする2種3分子の発色団が光受容体1分子内に共存するという、これまでに例のない発色団構成をとっている。フォトトロピンは、光屈性や葉緑体光定位運動、気孔開口、葉の伸展といった反応を制御し、光合成活性を効率化する光受容体である。高等植物ではこれらの現象は青色光でのみ誘導されるが、シダ植物では光屈性や葉緑体光定位運動が青色光だけでなく赤色光で誘導されることが知られている。これらの知見から、PHY3がフォトトロピンの制御する反応を、青色光だけでなく赤色光でも制御する光受容体であることが予測されていた。これらの現象を広い波長域の光で制御できることが、シダ植物が弱光環境に適応できた一つの原因であると考えられる。これまでに、PHY3を欠損したホウライシダでは光屈性に対する光感度が著しく減少することが示されており、PHY3がシダ植物に高い光感度を与えていることが明らかになっている。しかしながら、PHY3が赤色光・青色光両方の光受容体としての機能を有するのかどうかは明らかにされておらず、さらにはPHY3分子がいかにして高い光感度を示すことができるのか、その仕組みは不明であった。

061107phy3jpg.jpeg図1. シダPHY3の構造

[ 研究手法と成果 ]

今回、首都大学東京の鐘ヶ江健助手と基礎生物学研究所の和田正三特任教授のグループは、PHY3の機能解析を行うためにフォトトロピンの機能を失ったシロイヌナズナ(phot1-5 phot2-1)にPHY3を導入し、胚軸の光屈性を指標として光生理反応を調べた。その結果、PHY3を導入したシロイヌナズナでは、青色光・赤色光のどちらでも光屈性を誘導することができることが示された(図2)。このことにより、PHY3は赤色光受容体フィトクロムと青色光受容体フォトトロピンの両方の機能を1分子で有する光受容体であることが明らかになった。さらに、単独では光屈性を誘導できないような弱い赤色光と青色光を同時に照射すると、光屈性が誘導されることが判明した。これにより、赤色光情報と青色光情報が分子内で相乗効果を生み、弱い光にも応答できるようになることが明らかとなった。

061107phy3-2jpg.jpeg図2. PHY3導入形質転換シロイヌナズナにおける光屈性

[ 今後の展望 ]

シダPHY3が、進化的に離れた双子葉植物のシロイヌナズナでも機能することから、この光受容体は広範な植物種でも働きうると考えられる。このことは、PHY3を一般の植物に導入することにより、青色光でのみ誘導される現象を赤色光でも誘導できるようにし、さらに青色光・赤色光による相乗効果で、より弱い光に応答できるようになることが期待される。そうなれば、室内などの比較的暗い光環境下でもいろいろな植物を栽培することが可能になり、室内緑化などの応用面への展開も期待される。

 

[発表雑誌]

Proceedings of the National Academy of Science of the United States of America (米国科学アカデミー紀要)
(2006年11月6-10日online版先行発表)
論文タイトル:
A single chromoprotein with triple chromophores acts as both a phytochrome and a phototropin
著者:Takeshi Kanegae, Emi Hayashida, Chihiro Kuramoto and Masamitsu Wada

[研究グループ]

本研究は首都大学東京大学院理工学研究科(鐘ヶ江、林田、倉本)と自然科学研究機構基礎生物学研究所(和田)との共同研究として実施された。

[報道解禁日]

2006年11月7日(米国東部時間 11月6日午後5時)

[本件に関するお問い合わせ先]

首都大学東京大学院理工学研究科生命科学専攻 助手 鐘ヶ江健
Tel: 042-677-2564
E-mail: tkanegae@comp.metro-u.ac.jp

基礎生物学研究所 光情報研究部門 特任教授 和田正三
Tel: 0564-55-7610
E-mail: wada@nibb.ac.jp

[報道担当]

基礎生物学研究所 連携・広報企画運営戦略室
Tel: 0564-55-7628
E-mail: press@nibb.ac.jp