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プレスリリース詳細

2006.09.02

ショウジョウバエの胚生殖巣で活性化する遺伝子の網羅的カタログ化に成功 ~ 卵・精子の発生プログラム解明のヒントに ~

卵や精子、すなわち生殖細胞は次世代に生命を受け渡す大切な細胞です。この生殖細胞は、卵巣や精巣などの生殖巣とよばれる器官のなかでつくられます。発生過程の初期に生殖細胞になるように運命づけられた細胞(始原生殖細胞)は、生殖巣の中で細胞の形や性質をダイナミックに変化させ、最終的に卵や精子へと分化するのです。このダイナミックな変化を制御するメカニズムを知るためには、そこで働く遺伝子のカタログをつくることがまず重要です。基礎生物学研究所の重信秀治助手、北舘佑総研大大学院生、小林悟教授らの研究グループは、発生初期の生殖巣(胚生殖巣)の重要性に注目しました。胚生殖巣のなかで生殖細胞の発生のプログラムがおおよそ決定されると考えたからです。小林教授らは,モデル生物であるキイロショウジョウバエの胚生殖巣で活性化する遺伝子を網羅的にカタログ化することに成功しました。その結果、およそ3,000もの遺伝子の活性化が認められました。これはショウジョウバエ全遺伝子の約20%に相当します。生殖細胞の発生は、多くの生物で共通点が見られることから、今回の研究成果はヒトを含めた動物全般の生殖細胞研究における重要な基礎情報になるとともに、将来生殖医療への展開も期待できます。研究の詳細は、2006年9月1日、米国科学アカデミー紀要(PNAS)オンライン版で先行発表されました。

[背景]

次世代に生命を受け継ぐ為の特別な細胞である生殖細胞の形成は、発生過程のごく初期に開始されている。生殖細胞になるように運命づけられた細胞(始原生殖細胞)は、周囲の体細胞と共に卵巣や精巣の原基(胚生殖巣)を形成する。さらに始原生殖細胞は胚生殖巣内において細胞の形や性質をダイナミックに変化させ、最終的に卵や精子へと分化する。始原生殖細胞は生殖巣に取り込まれなければ卵や精子に分化することはできない。最近の研究から、生殖細胞の発生に重要なプロセスが、胚生殖巣内で開始することが予想されてきたが、胚生殖巣の中でどのような遺伝子が発現し、その働きによりどのようなプロセスが制御されているのかについて、これまでほとんど情報がなかった。そこで、胚生殖巣内で生じる生殖細胞分化の分子機構の解明を目指し、今回、基礎生物学研究所の重信秀治助手、北舘佑総研大大学院生、小林悟教授らの研究グループは、モデル生物、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)を用いて、胚生殖巣で発現する遺伝子の網羅的カタログ化を行い、胚生殖巣の際だった特徴を捉えることに成功した。

[研究手法と成果]

まず重信らは、胚生殖巣のみをショウジョウバエの胚から単離する技術を確立した。始原生殖細胞のみが蛍光を呈するように遺伝子を改変したショウジョウバエを使い、胚を生殖巣の形が保たれる条件で破砕し、始原生殖細胞の呈する蛍光を目印にして胚生殖巣のみをフローサイトメトリーという技術で単離した(図1)。

060902fig1.jpg図1. ショウジョウバエ胚(右図:白点線は胚の輪郭を表す。
蛍光を呈しているのが始原生殖細胞)
および
単離した胚生殖巣(左図)

この方法により得られた胚生殖巣からcDNAライブラリーを作成し、EST解析により遺伝子を特定、さらにwhole mount in situ hybridization法により個々の遺伝子の発現パターンを解析し、胚生殖巣で発現するほとんどすべての遺伝子のカタログ化に成功した。胚生殖巣ではショウジョウバエ全遺伝子の20%に相当する3,000もの遺伝子の発現することが明らかとなった。また胚生殖巣で発現する遺伝子レパートリーは成虫の生殖巣(卵巣・精巣)が発現する遺伝子レパートリーとはかなり異なることが分かった(図2)。 胚生殖巣ではレトロトランスポゾンと呼ばれるウイルス様の遺伝子が極めて大量に発現していること、またSUMO化やRNA干渉など、これまで生殖細胞の分化との関わりが知られていなかった遺伝子群が胚生殖巣に高く発現していることが判明した。さらに生殖細胞に特異的に発現するリボゾーム蛋白質の存在が明らかとなった(図3)。

 

060902fig2.jpg

図2. 胚生殖巣で活性化される遺伝子レパートリーは
成虫生殖巣(卵巣・精巣)のものとかなり異なる

060902fig3.jpg図3. 胚生殖巣活性化遺伝子カタログの一部(矢頭で示した部分が胚生殖巣)


[研究の展望]

本研究により明らかとなった胚生殖巣の遺伝子発現カタログを元に、生殖細胞の発生過程の解明を目指し、これらの遺伝子の機能解析を遺伝学的な手法により進めている。生殖細胞系列の発生は、幅広い生物種で共通する機構が機能していることが知られている。したがって、今回の研究成果はヒトを含めた生殖細胞研究において、精子や卵がどのようなメカニズムで正常に形成されるかという問題に迫るための重要な基盤になると考えられ、生殖医療分野への展開も期待されている。

[発表雑誌]

Proc Natl Acad Sci U S A 米国科学アカデミー紀要
(2006年9月1日online版先行発表  9月12日雑誌掲載予定)
論文タイトル:
Molecular Characterization of the Embryonic Gonads by Gene Expression Profiling in Drosophila melanogaster
著者:Shuji Shigenobu, Yu Kitadate, Chiyo Noda, and Satoru Kobayashi

[研究グループ]

本研究は基礎生物学研究所発生遺伝学研究部門の重信秀治 助手、北舘祐 総研大大学院生,野田千代 技術職員,小林悟 教授からなる研究グループにより実施された。

[報道解禁日]

2006年9月2日

[本件に関するお問い合わせ先]

基礎生物学研究所 発生遺伝学研究部門 教授 小林 悟
Tel: 0564-59-5875  
E-mail: skob@nibb.ac.jp
URL: http://www.nibb.ac.jp/cib1/

[報道担当]

基礎生物学研究所 連携・広報企画運営戦略室
Tel: 0564-55-7628
E-mail: press@nibb.ac.jp