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大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

基礎生物学研究所

修了生の声

修了生の声 橋山一哉さん


Hashiyama1.jpg 私は大学院博士課程からポスドクまでの6年間を基礎生物学研究所で過ごしました。修士課程の大学院生だった時、進学先を探していた私は「ミトコンドリアの遺伝子がハエの生殖細胞形成に関与する」という、独創的な研究をしている研究者が日本にいることを知り驚きました。そして、「この先生の下でなら、自分も面白い研究ができるかもしれない」と、小林悟先生の研究室の門をたたきました。
 

 私が小林研に在籍した当時は、重信秀治博士らが中心となって行ったマイクロアレイ解析によって「ショウジョウバエ遺伝子のカタログ化」に成功した時期でした。この研究によって、生殖細胞の中でいつ、どの遺伝子が働き始めるのかが詳細に明らかにされたのです。私が大学院生時代に行った研究も、この「カタログ」の中から偶然見つかってきたものです。
 

 生殖細胞の性の決定、つまり、精子・卵の決定は生殖細胞が生殖巣に取り込まれた後に起こるというのが定説となっていました。ところが、私が「カタログ」に含まれる、ある遺伝子の働きを抑制したところ、生殖巣に取り込まれる以前に、将来、卵になる生殖細胞のみが細胞死を起こしたのです。つまり、私の実験結果は定説とは異なる性決定プログラムの存在を示していたのです。この発見を足がかりとして、生殖細胞の性決定機構の一端を明らかにすることができました(編集部注:研究成果の紹介はこちらです)。
 

 この研究をまとめるにあたり、私は将来研究者を目指す大学院生として多くのことを学びました。まず、先行研究で何が明らかにされているのかを正確に把握し、自分の実験結果と照らし合わせる。そして、世界中の研究者に納得してもらえる実験計画を練る。毎日が試行錯誤の連続でした。シンプルですが、今後研究を進める上で非常に重要なトレーニングであったと思います。
 

 研究に行き詰まった時には、大学院生の仲間に助けられました。皆、研究所の近くに住んでいたため、夜遅くまで実験をし、その後は明け方まで語り明かした日々は良い思い出となっています。
 

 プロの研究者に囲まれて過ごした基生研での大学院生時代は、とても幸運な環境であったと感じています。身近に目標となる先輩方がいることで、自分に何が足りないのかを日々感じとることができました。さらに、研究室間の垣根も低く、困った時は所内専門家にすぐに相談することができ、新しいアイデアが生まれるきっかけとなりました。
 

 また、海外での研究発表の経験が私の研究人生の一つの転機になりました。当初は不慣れな英語での口頭発表に苦労しましたが、何度か経験を積んだことで、度胸と自信をつけることができました。世界中の研究者に私の研究について知ってもらう機会を得て、憧れの研究者と直接議論を交わすこともできました。それまでは、漠然と海外留学への憧れを抱いていましたが、これらの貴重な経験は海外留学を現実的に考えるきっかけになりました。
 

 そして現在、私はスペインのバルセロナにある研究所でポスドクとして働いています。新しい研究テーマ、アジア人は自分以外いない職場、言葉の壁、異なる文化に身を置き、日本では得られない多くの経験をしています。しかし、これまでとは大きく異なる環境下であっても、基生研で学んだことが礎となって私の現在の研究を支えています。今は、自分がどこまで頑張れるか、一日一日、挑戦していきたいと思っています。
 

 最後に、大学院における5年間は、その後の研究人生を左右する重要な期間です。皆さんが、良き指導者、仲間に恵まれ、充実した大学院生時代を送られることをお祈りしております。
 

(2012年 5月記)

橋山一哉さん 略歴

2005年 : 上智大学 理工学研究科 修士
2008年 : 総合研究大学院大学 生命科学研究科 博士(理学)
2009年 : 日本学術振興会特別研究員 PD (基礎生物学研究所)
2010-11年 :NIBBリサーチフェロー (基礎生物学研究所)
2011年-現在 : Institute for Research in Biomedicine, Barcelona 博士研究員