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大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

基礎生物学研究所

修了生の声

修了生の声 田中暢明さん (北海道大学 理学研究院 准教授)

 

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 基生研には修士2年、博士4年の計6年間通いました。毎日ママチャリで小高い丘の上の研究所に通うことはなかなかハードでしたが、考えてみると、未だこの歳になっても激チャリに耐えられるのは、この6年間のおかげかもしれません。

 

 思えば、学部生時分には、ほとんど勉強をしてこなかった脳機能研究を志ざし、大学院生として基生研に来た当初は、右も左もわからない状況から実験生活を開始しました。それまでの賑やかな大学街での生活から一転、周囲には学生も少なく、最初は寂しい学生生活でした。そうした生活を打破すべく、まず、近所の表千家の教室に通うことから始めました。毎週、小1時間くらいお茶の先生と世間話をして、その後、甘いお菓子にお抹茶を頂いて帰るという非日常はとても良い気分転換になりましたし、研究室では味わえない季節感を常に感じられて新鮮でした(正座はなかなかしんどかったですが)。あとは、研究所から7キロほどの幸田町の町民プールにママチャリで行って、2キロ泳いで帰る、なんてことも、しょっちゅうしていました。また、所内には学生向けの企画がほとんどなかったのですが、当時の所長にかけあったら、自由にやったら良い、とあっさり許可が下りて、学生向けのセミナーやら、愛知万博のために山が伐採される前の海上の森の植生を見に行くツアーイベントとかを企画したりしました。真面目なイベントのように聞こえるかもしれませんが、ガイドしてもらった塚谷先生のご指導のもと、森でキノコ狩りをして、みんなでキノコ鍋をして呑んだ、という会でした。

 

 そんな学生だったので、研究生活の方はいろいろ行き詰まって、苦労した記憶しかありません(=いろいろな方にご迷惑をおかけしました)。基生研には、非常に多くのスタッフがいて、実験や研究の相談はしやすかったです。思い返せば、かの大隅先生の部屋に人生相談にうかがった際に、「田中君はお酒を呑むかい?」と聞かれ、「はい」と言ったら、奥から芋焼酎が出てきたのも良き思い出です。今はこれを気に入っていて、箱買いしている、という話をされていました。

 

 話を元に戻して・・・神経科学を学部生時に勉強せずに大学院で脳研究を始めてしまった身としては、基生研に来て非常に良かった点は、隣に生理研があったことでした。生理研では、年中、脳神経系に関した研究会があり、それに潜って、最新の神経科学研究を吸収することができました。ここまで書いてみると、本当に自由気ままに大学院生生活を送ってきたかのようにみえますが、実はまさにその通りで、なかなかハチャメチャな学生だったと思います。それでも、皆さんのご厚意で、どうにか博士を出していただいて、今日まで、研究者のはしくれとしてやってこれました。学位をとった後は、アメリカのNIH、京大でポスドクをして、その後、北大で独立して研究室を主宰しています。今は、博士課程の時から続けているショウジョウバエの脳研究に加え、ヒメイカを使った頭足類(実はめっちゃ賢い)の脳機能研究も始めました。ショウジョウバエで本能的な行動の理解を、頭足類で知能の神経基盤にアプローチできたら、と思っています。ここまでくると、やはり自分は常に「基礎生物学」をバックグラウンドにして研究を続けてきたんだな、と思います。

 

 最後に学生の皆さんへ。僕にとって、大学院時代といえば、とかくしんどかった思い出ばかりです。学位をとった後も、それなりに大変なことはありましたが、学位をとるまでと比べたら、それほどでもありませんでした(もちろん所属する研究室にもよりますが・・・)。学生の皆さんは、学位をとった後の楽しい研究生活をイメージして、今学べることに精一杯打ち込んでみてください。そして、今が一番、固定観念を持たずに、オリジナルなアイデアを自由に発展させられる時期だと思って、将来どんな研究をしたいのか常に考え続けてみてください。研究者の人生は、山あり谷ありですが、学生の時に夢みていたことが実現できるって、なかなか楽しい人生ですよ。

 

(2017年 7月記)

 

田中暢明さん 略歴

1999 : 京都大学大学院 理学研究科 修士課程卒
2004 : 総合研究大学院大学 生命科学研究科 博士(理学)
2004-2009 : 米国National Institutes of Health 博士研究員
2009-2013 : 京都大学 生命科学系キャリアパス形成ユニット 特定研究員
2010-2014 : 科学技術振興機構 さきがけ研究員
2013-2017 : 北海道大学 創成研究機構 特任助教
2017-現在 : 北海道大学 理学研究院 准教授
https://www.sci.hokudai.ac.jp/grp/tanaka/lab/index.html