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大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

基礎生物学研究所

修了生の声

修了生の声 西村俊哉さん (名古屋大学 大学院理学研究科 助教)

 

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 私は基生研で2009年から7年間過ごしました。6年間は大学院生として(一年オーバーしました)、1年間をNIBBリサーチフェローとして研究に携わりました。私が所属していたのは生殖遺伝学研究室(指導教員:田中実准教授)で、メダカを用いて性が決まる仕組みを研究している研究室でした。私が入学した当初は、大学院生は私一人だけで、その他ポスドク2名という小さなラボでした。小さいラボでしたが、プロの研究者からマンツーマンで技術の習得や研究の進め方など、事細かく指導していただき、充実した研究生活を送ることができました。

 

 当時田中研では、生殖細胞(精子と卵の元となる細胞)が単に配偶子を作り出す機能を持つだけでなく、積極的に身体をメスにしようとする働きがあることを見出していました。私は生殖細胞がどのような仕組みで身体をメスにするのかに興味を持ち、田中研を選びました。生殖細胞から「メス化因子」が出ており、その作用で身体をメスにしているはずだという仮説のもと、「メス化因子」の探索をマイクロアレイや当時流行りだしたRNAseqを用いて行いました。しかし、思うようには見つからず、入学してからの丸々3年間はほとんどデータが出ず悪戦苦闘の毎日でした。在学中には「メス化因子」の発見には至らなかったのですが(未だわかっていません)、生殖細胞自身の性について興味深い現象を見出しました。一般的に生殖細胞の周りに存在する体細胞の性の影響を受けて、生殖細胞においてオスとメスの違い(性差)が生み出され、最終的に生殖細胞は精子あるいは卵になると考えられてきました。しかし、私が出したデータでは、体細胞の性が決まる前から生殖細胞には性差があり、その違いは生殖細胞自律的(周りの体細胞の影響なし)に確立されていることが明らかとなりました。また、マイクロアレイやRNAseqのデータには、さらに重要なお宝が埋もれていました。そのお宝遺伝子の機能を壊してみると、そのメダカの身体はメスとなり、卵巣を作るにも関わらず、なんと生殖細胞は精子になってしまいました。このデータを初めて見た瞬間、身体がゾクゾクしたのを覚えています。そのお宝遺伝子とは、生殖細胞が「精子になるか、卵になるか」のスイッチに関わる遺伝子であり、それは脊椎動物では初めての発見でした。生殖細胞は、単に体細胞の命令で精子や卵になる受動的な細胞ではなく、自ら性差を生み出すこともできるし、場合によっては体細胞の命令に背いて「精子になるか、卵になるか」を自身で決めてしまうやんちゃな一面のある細胞であることがわかりました。このような生殖細胞の性についての研究で無事に学位を取ることができ、その後1年間はポスドクとして研究を続けました。その頃にはラボでは一番の若者だった私も気がつけば、ラボの最年長になってしまいました(もちろん田中先生を除いて)。

 

 田中研は現在名古屋大学に移り、私は助教として着任しました。大学は若さに満ち溢れており、若者に囲まれながら研究生活を送っています。引き続き生殖細胞の性の研究や「メス化因子」の探索を行い研究三昧の毎日です。と言いたいところですが、基生研時代とは異なり、名古屋大学では学生実習の指導や大学院の講義なども受け持つようになり、研究以外の仕事も増えました。また、自らの研究費を得るための申請書を書く時間も増えました。しかし、時期によっては研究に没頭できる時間もありますので、そのような時に集中的に実験を行おうと心がけています。単に研究だけをやるのが研究者ではないと言う現実を身をもって感じ始めています。

 

 最後に基生研の研究以外の一面も紹介しようと思います。「基生研」と聞いて私が一番に思い出すのは実は「研究」ではなく、「飲み会」です。とにかく飲みまくっていた7年間でした。当時の基生研は酒豪の集まりでした(現在はどうでしょうか)。ラボあたりの学生の数は少ないですが、研究室の垣根を超えて学生や研究者との交流が盛んでした。ラボ主催の飲み会が頻繁に開催され、いつもは恐れられている教授の意外な一面が見られることもありました。春と秋に基生研パーティーがあり、そこで知り合った学生や研究者と飲み仲間となり、東岡崎駅前の居酒屋で朝まで飲むコースが定番でした。最終的に行き着く場所は、乙川の河川敷で、飲み会でインプットした余剰分をアウトプットし、魚にも分け与えていました(これはごく一部の人たちです)。また、研究所内には大学院生のための部屋「院生部屋」があります。そこは教員が絶対に入り込んではいけない神聖な領域であり、学生だけの憩いの場所であります。研究で疲れた時には、よく顔を出しては、飲みつぶれてそのまま椅子を並べて寝ていたことが思い出されます。大学院時代の同期の何人かは研究者として研究を続けており、学会や共同研究などで彼らの大学や研究所の近場に来た時には、彼らと再会し、飲みながらバカ話や研究の話をするのが最近の楽しみとなりました。

 

 研究は成果が出るとワクワクして楽しいものですが、一筋縄では進まず、スランプに陥ることがよくあるかと思います。そんな時には、一度息抜きをして、頭をリフレッシュしてから再度計画を練り、実験を進めることが大事だと思います。基生研には研究を進めていく充実した環境だけでなく、息抜きができる場があり、そのおかげで私は7年間研究を続けられた気がしています。

 

(2018年 5月記)

 

西村俊哉さん 略歴

2009 : 北海道大学 水産学部 学士
2015 : 総合研究大学院大学 生命科学研究科 博士(理学)
2015-2016 : 基礎生物学研究所 NIBBリサーチフェロー
2016-現在 :名古屋大学 大学院理学研究科 助教