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大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

基礎生物学研究所

修了生の声

修了生の声 松山誠さん (重井医学研究所 主任研究員)

 

matsuyama.jpg 1999年のある初夏の日のこと。私は当時の先輩に連れられ、裏門?から基礎生物学研究所の玄関に入りました。今でもその時の情景、新緑の濃い緑と研究所の建物のオレンジ色のコントラストが、鮮明な記憶のまま残っています。

 その時四回生だった私は、「最先端の研究に携わりたい!!!」という漠然とした考えしかないありさま。当時の先輩は、漠然とした考えのみで将来の具体性を全く持たない私に見るに見かねて、基礎生物学研究所細胞分化研究部門(のちに性差生物学研究部門)の諸橋憲一郎教授(現九州大学医学研究科教授)の研究室を紹介してくれました。しかも私一人だと不安だったのでしょう、先輩は、諸橋教授とのアポイントメント、さらに基礎生物学研究所まで私の引率役を買ってでてくれました。先輩のご心配通り、全くのダメ学生だった私は、諸橋教授の研究内容を全く知らず・調べず、研究室見学。それでも諸橋先生には、やさしく「研究者目指すのであれば、大学よりも研究所。スタッフもいっぱいいるし、研究に専念できる。ぜひウチ(のラボ)においで!」と声をかけていただきました。

 ところで当時総合大学院大学は、博士前期課程(修士課程)がありませんでした。しかし諸橋教授は、知り合いの先生に声をかけ、岡崎と行き来可能な大学院を探し出してくれました。その結果、私は他の大学院に籍をおきながら、共同利用の研究員として基礎生物学研究所で勉強・研究をする事ができるようになったのです。(なお、現在は5年一貫博士課程が設置されており、大学卒業後すぐに基礎生物学研究所の基礎生物学専攻に入学することができます。)

 

 長々と私の基礎生物学研究所に行くきっかけを書かせていただきましたが、やはり最初に強調したいのは、基礎生物学研究所には、当時の私のような学生を引き受けてくれる「心の余裕」があるということです(もちろん、諸橋教授の心の器の大きさが一番大きな要因ですが・・・)。

 修了生の皆様がおっしゃっていることですが、総研大・基礎生物学研究所のよい所は、大学とは違い、学生の数に比べ、研究者のスタッフの割合が圧倒的に高いことです。大学では、修士課程や博士課程の学生が、その後輩の指導をすることもあると聞きます。しかし、私は、大学院生活の五年間で、自分の勉学・研究に専念することができたと思います。この研究指導体制のおかげで、大学院中に、実験手法はもちろん、研究計画の立案・結果の解釈、研究計画の軌道修正、論文作製・プレゼンテーション技術など、独り立ちするのに必要なトレーニングをほとんど受けることができました。そのおかげで、大学院卒業後のポスドク期間中では、純粋に研究に専念することができたと思っています。

 

 一方、総研大・基礎生物学研究所に優秀なスタッフがいるということは言わずもがな、なのですが、優秀な大学院生もいっぱい集まってきます。総研大生はもちろん、他大学からの大学共同利用の大学院生(共同研究者など)もいます。私は、岡崎での5年間にさまざまなこれらの大学院生と出会うことができ、大きな大きな刺激を得ることができました。ちなみに、私の同時期に大学院生だった人達の多くが、日本内外で一流の研究者として活躍されています。

 また大学院在籍中に、彼らや生理学研究所などの大学院生メンバーと共同で、勉強会を立ち上げ、幅広い知識を得ることができました。ちなみに「CELLゼミ」といって、雑誌の「CELL」の輪読会を毎週していました。論文を一つずつ担当するのですが、自分で論文を選ぶ権利がほとんどなし。2週に1度当番が回ってくるので、準備を実験の合間にそつなくこなすのが大変でした・・・。しかし、このトレーニングを3年間続けたおかげで、研究分野に関係なく、論文を的確に早く読みこなすことができようになりました。感謝!

 さらに、総研大には生命科学研究科合同セミナーという行事があります。これは年に一回、総研大生命科学研究科を構成する基礎生物学研究所・生理学研究所・遺伝学研究所の3専攻の交流を促進させる、という趣旨で行われているものです。このセミナーは全員同じ施設に宿泊するため、教官・学生と酒を交わしながら、楽しく・貴重な時間を過ごすことができます。さらにさらに、各専攻の学生委員になると、このセミナー全体のプログラム委員として、検討に加わることができます。さらにさらにさらに!、一つのシンポジウムのセクション(二時間ぐらい?)を3専攻の学生委員に任されます。シンポジウムの企画立案、演者の選定・連絡、当日の演者のお迎え(笑)まで、すべて自分達で行います。こんな経験は、普通であればPIにでもならない限りすることができません。大学でも最近「リトリート」などで同じような経験ができますが、総研大生は人数が少ないため、参加できるチャンスは大学より多いと思います。

 

 そして現在私は、2012年から岡山にある重井医学研究所で、小さなラボを主宰することになりました。私立の病院が所有する大変珍しい研究所ですが、基本的に自由にテーマ設定して研究することができます。現在、まだ空いていない段ボールと格闘しながら、研究環境を整えているところです。これまで基礎生物学研究所で学んだ5年間を思い出し、これから研究者として独り立ちできるよう、頑張っていきたいと思います。

 

 最後に(将来の)総研大生に一言。研究室に籠って、実験だけをしていては、総研大に来た意味がありませんよ!素晴らしいスタッフ・学生とのコミュニケーションを活発にして、真の一流の研究者目指して頑張ってください!!!

 

(2012年 8月記)

 

松山誠さん 略歴

2000年 : 東京工業大学 生命理工学部 卒業
2005年 : 総合研究大学院大学 生命科学研究科 博士(理学)
2005-2008年:理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 研究員
2008-2012年:愛知県がんセンター研究所 リサーチレジデント
2012年-現在:重井医学研究所 分子遺伝部門 主任研究員
 ホームページ http://www.shigei.or.jp/smri/index.htm