大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

基礎生物学研究所

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国際連携

EMBL - 連携活動

"EMBO Conference on the Mighty Daphnia" 参加報告(宮川一志)

Venue バーミンガム大学、エクセター大学、ロンドン自然史博物館
Date Jan. 18-27, 2014

【概要】

① Daphnia Genomics Consortium Meeting 2014 「EMBO Conference on the Mighty Daphnia: Past,Present and Future」に参加し、口頭発表及び情報収集を行った。

② John K. Colbourne教授およびMark Viant教授の研究室を訪問し、データ解析に関するトレーニング、これまでの研究結果についてのディスカッションおよび今後の研究方針についての打ち合わせをおこなった。

③ エクセター大学のセミナーにおいて口頭発表をおこない、その後共同研究者のCharles R. Tyler教授と打ち合わせをおこなった。

④ ロンドン自然史博物館を訪問し、Museum所蔵の標本資料、生物資料より情報収集をおこなった。

 

【詳細】

①バーミンガム大学 2014年1月19日~2014年1月22日(4日間)

Daphnia Genomics Consortium Meeting 2014 「EMBO Conference on the Mighty Daphnia: Past,Present and Future」に参加した。本会議は2011年に公開されたミジンコDaphnia pulexのゲノムの解読もおこなった、国際的な研究協力グループであるDaphnia Genomics Consortiumが主催する定期国際会議として位置づけられており、私は2010年に開催された前会議に引き続いての参加となった。合計で39題の口頭発表、51題のポスター発表がおこなわれ、発表をおこなわない参加者も含めて約150人が会議に参加した。発表はほぼ全てがミジンコに関連する物であり、古生物学・生態学・環境保全から分子・発生まで幅広いテーマが扱われていた。私はMorphology and Phenotypic PlasticityというセッションにおいてA single amino acid substitution in Methoprene-tolerant (Met) alters juvenile hormone use by insects and crustaceanというタイトルで口頭発表をおこなった。本発表の内容は、節足動物の主要なホルモンである幼若ホルモンの受容体をミジンコにおいて私たちが初めて単離・機能解析をおこなった結果に関するものであり、これまでミジンコでは用いられてこなかった分子生物学的手法を用いて昆虫類との詳細な比較解析をおこなっているため、多くの研究者の興味を引き、活発な議論へと発展させることができた。また、本研究発表内容に興味を持ったNorwegian Institute for Water ResearchのKnut E. Tollefsen博士との間で私たちの開発した実験手法を利用した新たな共同研究プロジェクトを立ち上げることができた。今後これらの共同研究を通してミジンコや節足動物の多様な生態・発生のさらなる理解が深まると期待される。

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左:口頭発表の様子 / 右:Tollefsen博士(左から2番目)との共同研究の打ち合わせ

 

②バーミンガム大学 2014年1月23日~2014年1月23日(1日間)

John K. Colbourne教授およびMark Viant教授の研究室を訪問し、データ解析に関するトレーニング、これまでの研究結果についてのディスカッションおよび今後の研究方針についての打ち合わせをおこなった。Colbourne教授はミジンコのゲノミクスの専門家であり、Daphnia pulexのゲノム解読においても中心的役割を果たした人物である。Colbourne教授の研究室ではこれまでに次世代シークエンサーを用いた数多くの研究実績があり、日常的にこれらのデータの解析をおこなっている。私は現在基生研の共同利用で次世代シークエンサーを使用した研究をおこなっているため、今回Colbourne教授にデータの解析方法を習い、またそのデータの今後の活用方針についてディスカッションをおこなった。Colbourne教授の研究室に蓄積されている膨大なミジンコの遺伝子データを活用することで今後より正確で詳細な解析が可能になると期待される。一方で、Viant教授の研究室は化学分析手法を用いた代謝ネットワーク解析(メタボロミクス)を専門にあつかっている。ミジンコの見せる多様な環境応答を制御する体内生理機構の解明は私たちの重要なテーマの一つであり、これまでにViant教授のもとに生体サンプルを送付して代謝産物の網羅的解析を依頼していた。現在までに大部分の解析は終了しており、今回は解析結果の詳細な説明を受けるとともに、どのような方向性で論文化するか、および今後の実験方針についてディスカッションした。専門機器を必要とするメタボロミクス解析が可能な研究室は限られているため、私たちの共同研究はミジンコのメタボロミクス研究のさきがけとして関連研究分野の重要な位置を占めると予想される。

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左:Colbourne教授の研究室のミジンコ飼育設備 / 右:Viant教授(中央)との打ち合わせ

 

③エクセター大学 2014年1月24日~2014年1月24日(1日間)

エクセター大学のセミナーにおいて口頭発表をおこない、その後共同研究者のCharles R. Tyler教授と打ち合わせをおこなった。Tyler教授は主に小型魚類などの水棲脊椎動物を使用し、ホルモン様物質などの化学物質がホルモン受容体を介して様々な生命現象をかく乱するメカニズムの解析をおこなっている。対象とする生物や化学物質は異なるものの、私のミジンコにおける内分泌系の研究と類似した点も多く、様々な先進的技術の開発されている小型魚類の実験手法はまだ発展途上のミジンコ研究にとって学ぶべき点が非常に多いと言える。今回はTyler教授及び研究室のメンバーと合同セミナーをおこない、研究の相互理解を図るとともに、モデル生物の手法をいかにしてミジンコに取り入れてゆくかについてディスカッションをおこなった。ミジンコにおける様々な実験手法の確立は今回のEMBO Conferenceにおいても主要な議題の一つであり、多くの研究者が取り組んでいる。Tyler教授との共同研究は今後ミジンコを環境生物学のモデル生物へと導く上で非常に大きな貢献ができると期待される。

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Tyler教授の研究室との合同セミナー

 

④ロンドン自然史博物館 2014年1月25日~2014年1月25日(1日間)

ロンドン自然史博物館を訪問し、Museum所蔵の標本資料、生物資料より情報収集をおこなった。自然史博物館の特徴は所蔵している動物標本の半数以上を占める膨大な数の昆虫標本である。残念ながら一部の施設が改装中だったため全ての展示標本を見ることはできなかったが、それでも日本国内の施設とは比べ物にならないほどの多様な標本・展示を見ることができた。また、その標本の展示手法にも専門知識に裏付けられた工夫が多く見られた。例えば、昆虫類の多様性は近年進化発生学(エボデボ)の分野の研究の主要な位置を占めており、多様な形態がどのようにして進化してきたかという問いは一般の人々の興味も強く惹き付けるものである。しかしながら、現状日本で見られるような分類群ごとに標本を分けて並べるだけではその違いや進化的な関係性を理解することは難しい。一方で自然史博物館の昆虫展示はその進化過程を非常に意識したディスプレイとなっていた。中でも今日のエボデボ研究の最も重要な概念の一つである「相同」を一般の人にも理解してもらうためにあえて異なる分類群を並べて比較するなどの工夫は、私たちの研究を世間に発信していく上でも参考にできる点であると言える。

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形態的に異なっていても発生過程が同じ(進化的な起源が同じ)であることを強調した標本展示

 

基礎生物学研究所 分子環境生物学研究部門
NIBB リサーチフェロー 宮川 一志