PCRは少量のDNAから必要な部分だけを増やす技術です。DNAは、A、C、G、Tという4種類の「塩基」が並んでできていて、この並びを塩基配列といいます。PCRで増やしたDNAの塩基配列を読むと、生物の遺伝情報を調べることができます。このような調査は世界中の研究室で行われています。本研究ではPCRで増やした「長い」DNAを、手軽に安く読む方法を開発しました。
【背景】
DNAを読むためには、以下の2つの方法があります。しかし、いずれの方法も数千から数万塩基の長さをもつPCRで増やした長いDNAを読む目的には適していませんでした。
1. 約500塩基の長さを解析できる装置(キャピラリーシーケンサー)を使う方法。この方法で長いDNA、例えば10,000塩基のDNAを読もうとすると、計算上10,000÷500=20で20回実験が必要になります。
2. 1回の実験で大量のDNAを解析できる装置(次世代シーケンサー)を使う方法。この方法は費用が高額で、PCRで増幅したDNAを読もうとすると必要以上に読めてしまい費用が割高になります。
【手軽に安くするためのアイデア】
最近、2の方法を使ってプラスミドDNAという長いリング状のDNAを読むサービスが国内外で広まりつつあります。このサービスでは、約25,000塩基までのプラスミドDNAを安く迅速に読むことが可能です。本研究グループは、PCRで増やした線状のDNAを、DNAの端と端をつなぐ酵素(T4 DNAライゲース)でリング状にすれば、このサービスを利用して手軽に安く読めると考えました。
【アサガオで確かめる】
アサガオでは、「トランスポゾン」というDNAが花に模様をつくり出します。このトランスポゾンを含む約11,000塩基のDNAを、PCRで増やして酵素反応でリング状にし、解析サービスで読んでみました。その結果、1回の実験で正確に読むことに成功しました。費用も従来の数分の1から10分の1程度に抑えることができました。このトランスポゾンのDNAは読むことが難しいという問題がありましたが、解析サービスで使用されている装置(Oxford Nanopore社の次世代シーケンサー)が長いDNAを読むことに適していることで、これも解決されました。
【誰でもどこでも手軽に安く】
この方法は、あらゆる生物のDNAに応用可能です。さらに、実験手順も簡単で、遺伝子組換え実験ではないため、基本的な機材さえあれば誰でもどこでも実施できます。現時点では、PCRで増やした長いDNAを読むための最適な選択肢といえるでしょう。この方法が利用されることで、多くの研究者が手間、時間、予算を節約でき、生物学の発展に貢献することが期待されています。
【発表雑誌】
タイトル:Labor- and cost-effective long-read amplicon sequencing using a plasmid analysis service: Application to transposon-inserted alleles in Japanese morning glory
著者:Soya Nakagawa, Atsushi Hoshino , Kyeung-Il Park
著者所属:基礎生物学研究所、総合研究大学院大学、嶺南大学
掲載誌:Genes & Genetic Systems
DOI:
10.1266/ggs.24-00174
【研究グループ】
本研究は、基礎生物学研究所の中川颯也大学院生、星野敦助教、韓国にある嶺南大学の朴慶一教授の研究グループによって実施されました。
【研究サポート】
本研究は、科学研究費助成事業(12K06239、23KJ1004)による支援を受けて行われました。
【本研究に関するお問い合わせ先】
自然科学研究機構 基礎生物学研究所 分野横断研究ユニット
助教 星野敦
TEL:0564-55-7543
E-mail:hoshino@nibb.ac.jp