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2002.02.28

大型スペクトログラフ室・渡辺正勝助教授、伊関峰生研究員らは、長年の謎であったミドリムシの光感覚を司る光センサー物質を発見(Nature 誌に掲載)

大型スペクトログラフ室の渡辺正勝助教授と伊関峰生研究員(生物系特定産業技術研究推進機構)らは、長年の謎であったミドリムシの光感覚を司る光センサー物質を発見し、ネーチャー2月28日号に論文を発表しました。
 ミドリムシは、ユーグレナとも呼ばれ、鞭毛を動かして水中を泳ぎ回り、また、植物と同じように緑色の葉緑体多数によって光合成をしている単細胞 微生物です。
このことから、動物と植物の中間として、また、光に向かって集まってくる微生物として小・ 中学校の教科書 によく紹介されている「国民的美(?)生物」です。この時にどういう物質が光センサーとして働いているかは、ダーウインの頃から100年以上も研究されて来ましたが、はっきりとは分かっていませんでした。
 まず、基礎生物学研究所の大型スペクトログラフでの実験により、紫外線と青色光が有効なことが分かり、 このことからビタミンB2の仲間であるフラビンが関与していることが推察されました 〔1998年論文発表〕。次に、ミドリムシの細胞内で光を感じる「目玉」と考えられている PFBという粒を取出してそこからフラビンを含むタンパク質を精製し、分析しました。その結果、このフラビンタンパク質はアデニル酸シクラーゼという酵素の性質を持つことと、その働きが青い色の光で活性化〔スイッチ・オン)されるという、意外な事実が分かりました。アデニル酸シクラーゼとは、多くの生物の細胞の中の情報伝達系で信号を伝えるセカンドメッセンジャーとして働くサイクリックAMP(cAMP)を作る酵素ですが、このように、自分自身が光を感じる、「1人2役」のアデニル酸シクラーゼは従来全く知られておらず、きわめてユニークな新発見で、光活性化アデニル酸シクラーゼ(PAC: Photoactivated Adenylyl Cyclase)と名付けました。味や匂いの感覚の場合では、アデニル酸シクラーゼは化学センサーからの信号をGタンパク質を介して受け取り、スイッチ・オンされますが、PACはそれ自身が光センサーでありアデニル酸シクラーゼでもありますので、すばやい信号伝達が可能であると思われ、ミドリムシの光感覚のような速い反応に好適と考えられます。実際に、PACがミドリムシの光センサーとして働いていることは、RNAiという手 法によりPACの生成を抑える、とPFB〔「目玉」)が消失し、光逃避反応が全く起こらなくなることから証明出来ました。
 PACはそれ自身が光センサーとしても機能する極 めてユニークなサイクリックAMP産生酵素ですので、PACを細 胞工学的に任意の細胞 に導入すれば、光を照射することで、狙った時間と場所で、ピンポイント的に細胞内のcAMP濃度を変化させられるようになると期待され、その結果、例えば神 経の走行方向や記憶その他の生命活動をコントロール する「細胞機能光スイ ッチ」として応用することが可能になるかも知れません。純基礎生物学的な研究から極めて予想外で有望な新物質が発見されることがあるという例として、社会の人たちにも知って頂きたいと思っています。
 この研究は、松永 茂(筑波大・生)、村上明男(神戸大・内海域)、大野 薫(基生研)、志賀 潔(熊本大・医)、吉田和市(基生研)、菅井道三(富山大・理)、高橋哲郎(東邦大・薬)、堀 輝三(筑波大・生)の諸氏との共同研究として行われました。

写真

peb2.jpeg取り出されたミドリムシの「目玉」

掲載新聞・雑誌・書籍一覧

 

2002/02/28 Nature 
 A blue-light-activated adenylyl cyclase mediates photoavoidance in Euglena
gracilis.
 〔青色光制御型アデニル酸シクラーゼはミドリムシの光回避反応の光センサーである〕
2002/02/28 毎日新聞 朝刊13面
2002/02/28 東海愛知新聞 朝刊3面
2002/02/28 日刊工業新聞 朝刊6面
2002/02/28 日本経済新聞 夕刊16面
2002/03/01 中日新聞 朝刊37面
2002/03/11 朝日新聞 科学欄

2002/03/03 中国新聞 科学欄
2002/03/04 高知新聞 科学欄
2002/03/05 北日本新聞 科学欄
2002/03/06 秋田さきがけ 科学欄
2002/03/12 神戸新聞 科学欄
 
2002/02/28 NHKテレビ 昼のニュース