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大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

基礎生物学研究所

国際連携

プリンストン大学 - シンポジウム

The 3rd NINS-Princeton Joint Symposium "Emerging Life Sciences"

Organizers IRCC-QIB, NINS: Kazuhiro Aoki, Ryota Iino, Naoto Ueno
Princeton University: Jared Toettcher, Michael Levine, Ileana Cristea
Venue Maeder Hall, Andlinger Center for Energy and the Environment, Princeton University
Date Mar. 22 – Mar. 23, 2023
Link Symposium website (https://sites.google.com/nibb.ac.jp/emerging-life-sciences/)
NINS-Princeton合同シンポジウム”EMEGING LIFE SCIENCES”開催報告書
 
共創戦略統括本部 定量・イメージング生物学研究部門
上野直人
 
2010年に自然科学研究機構が締結した国際連携協定に基づくプリンストン大学との合同シンポジウムを2023年3月22日、23日に米国プリンストン大学にて開催した。第1回、第2回はともに岡崎にて開催したが、今回は同大で開催する初めての合同シンポジウムとなる。シンポジウムタイトルからも分かるように、テーマとして、化学、生物物理学、生物工学から細胞生物学、分子生物学まで多岐にわたる生命科学の最先端の話題を取り上げた (図1)。準備にあたっては、ホスト側のJared Toettcher教授(Dept. Mol. Biol.)には多大なるご協力をいただいた。プリンストン大学側から8名、本機構を含む日本側からは7名の方に講演をいただいた。加えて、今回の特別な企画として、米国国立衛生研究所(NIH)のプログラムオフィサー外山玲子先生にはNIHによる若手研究者支援プログラムについてお話しいただいた。日本からも4名の若手研究者にポスター発表をしていただき、3名には本機構から旅費を支援した(以下3名の報告書を参照)。うち、2名を含む3名には口頭発表をお願いした。各講演(図2)の質の高さはいうまでもなく、計16演題のポスター発表も非常に活気があり(図3)、日米の若手研究者間の交流も目的とした本シンポジウムの目的を達成できたのではないかと考える。また、シンポジウムが終了した翌日には日本人研究者による研究室訪問を行い希望する研究室での見学やディスカッションを行った。米国での研究の現場、ポスドクや大学院生の生の声を聞き、情報交換ができたことも今回のシンポジウムの成果の一つである。
年度末の開催となった本シンポジウムの準備および予算執行にあたっては国際企画係、財務係、そして会場設営、当日の受付にはプリンストン大学のアシスタントEllen Brindle-Clarkさん、Mami Akiyamaさんに大変ご尽力いただきましたこと、この場を借りて感謝申し上げます。
 
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図1.アナウンスのためのフライヤー
 
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図2. シンポジウム最初の講演者Cliff Brangwynne教授
 
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図3. ポスター発表の様子

 
基礎生物学研究所・初期発生研究部門
小山宏史
 
The 3rd NINS-Princeton Joint Symposiumに出席した。研究発表会に参加して情報収集ならびに自身の研究発表を行うとともに、プリンストン大学の2つの研究室を訪問し所属の研究員と情報交換を行った。
 研究発表会においては、Nelson博士の肺の形態形成について、上皮細胞シートと平滑筋組織の相互作用によるメカニカルな機構が生物種間で異なることが提示された。私の研究である卵管の形態形成においても上皮細胞シートと平滑筋層の相互作用の重要性が明らかとなっており、器官形成における基本的な要素であるという認識を持った。進藤博士による甲状腺の形態形成では、組織内の空洞形成のメカニカルな機構の可能性について議論があった。空洞形成は私の研究により細胞間のメカニカルな相互作用の変化によって引き起こされることを理論・実験から明らかにしており、甲状腺において同様の機構に依っているか興味深い。Levine博士ら複数の研究者の発表から、遺伝子発現制御においてenhancerがなぜpromoterと相互作用できるのかという問題について、液液相分離によって説明できる可能性が提示された。近年の液液相分離に関する研究から、数十年来続く大問題への明確な糸口が提示されたことは衝撃であった。
 私自身の研究発表では、細胞を粒子に見立てて、粒子間のメカニカルな力を顕微鏡ライブイメージングのデータから推定するという内容を発表した。Nelson博士の研究室を見学した際に、粒子モデルを用いた多細胞シミュレーションを実施していることを聞いた。Nelson研究室の研究員によれば、Nelson博士自身が私の研究内容について研究室内でかなり話題にしていたとのことで、粒子間の相互作用力の推定法が一定の驚きをもって受け止められたものと認識した。私の推定法を様々な組織に適用すべきであろうと考える。
 Brangwynne博士の研究室の訪問においては、液液相分離が関係する生命現象を探索する研究紹介があり、私の認識以上に多くの生理的局面において液液相分離が起きていることがわかった。一方、私の疑問として、タンパク質やRNAなどの分子が集合した結果としてなぜ液滴のような挙動を持ちうるのかという物理的な問題があった。粒子モデルは細胞や分子・原子に適用されるフレームワークだが、粒子の集合体はjammingしやすいため液体のような挙動を持つことは自明ではない。Brangwynne博士の研究員によれば、タンパク質やRNAを単なる粒子でなく、粒子が連なったpolymerとしてモデル化すれば液体のような挙動が再現できるということであった。
 訪問した上記の研究室は、実験、マクロ流路などのエンジアリング、理論・数理など幅広い人材を抱えており、それらを有機的に繋げた研究を展開していた。このような研究室は日本ではおそらくほとんどなく、人材を集められるだけの力とそれらを繋げられるだけの知性が必要なのだろうと思う。

 
生理学研究所・感覚認知情報研究部門
宮田季和
 
 今回、NINS-Princeton Joint Symposiumに参加することでNINSとプリンストン大学の双方が行っている多くの先端的な研究に触れることができた。シンポジウムではゲノミクス、一分子イメージング、トランスクリプトーム解析、数理モデル、細胞動態、器官形成、神経生物学など生命科学の重要トピックスが幅広く網羅されており、どの講演も非常に興味深く勉強になるとともに、今後の共同研究など連携を考えるうえで参考になりうる実りあるものだった。シンポジウムでは活発な議論がなされており、分野外の講演についても専門的な知識がないながらも議論の内容について考えるいい機会となった。また、ポスター発表についてもシンポジウムに参加した学生や研究者の間で分野に囚われない活発な意見交換が行われ、様々なコメントやアドバイスを貰えたことは今後自身が研究を進めるうえでの大きなモチベーションとなった。加えて現在プリンストン大学に留学している日本人学生の話も聞くことができ、大学の環境やプリンストンでの生活状況についての情報を得ることができたことも留学について考えるうえでの一助となった。
 シンポジウム後に実施された研究室訪問では自身の研究テーマと深く関連する、MRIを用いたヒト脳イメージング研究を行っているJesse Gomez先生の研究室を見学させてもらうことができ、ラボミーティングへの参加や研究所内の案内をしてもらい、プリンストン大学における研究環境を見ることができた。また研究室メンバーとの交流もあり研究室の雰囲気を感じることができたことは、今後の研究活動において留学を考えるうえでとても参考になるものだった。
 このようなシンポジウムに参加できたことは、幅広い研究分野について学び自身の研究に関する新たな知見を得るだけでなく、今後研究活動を続けていく進路を考えるうえで非常に参考になるものであり、このような貴重な機会をいただけたことに感謝し、今後の研究活動に励んでいきたいと強く感じた。

 
生命創成探究センター/基礎生物学研究所・分子発生学研究部門
三井優輔
 
 今回は上野先生が企画されたEmerging Life Sciencesと題されたJoint Symposiumに参加させていただき、初めてのプリンストン大学への訪問となった。プリンストン大学は大変歴史ある大学で、今回のシンポジウムの少し前に基生研で講演されたProf. Yibin Kangによるキャンパスツアーでもその歴史について触れる機会があって勉強になった。アメリカ合衆国の成立以前にプリンストン大学が設立されていたことに驚かされた。またキャンパスの食堂で食事の機会もあり、キャンパスライフを垣間見ることができた。
 今回のシンポジウムでは専門の近い発生生物学・分子生物学から生物物理学やバイオエンジニアリングに近い内容もあり先端的なサイエンスの話を集中して聴くことができた。特にMichael Levine先生の転写制御に関する話はプレゼンテーションのスタイルも含め圧倒されるところが大きかった。またノーベル賞受賞者のEric Wieschaus博士も議論に加わる時があり、すごいところであることを改めて実感した。日本からは機構外部からも東京大学の深谷先生、澤井先生、熊本大学の進藤先生、生命誌研究館の秋山先生をはじめとする気鋭の研究者が参加され、交流することができたのは大変有意義だった。自分自身もJSTさきがけで取り組んできた「平面細胞極性」に関する研究発表の機会を与えていただいた。プリンストン大学には平面細胞極性で素晴らしい研究を進めておられるDanelle Devenport先生がいらっしゃり、ラボを訪問してDevenport先生に自分の研究を紹介してdiscussionができたのが個人的には何よりも大きい収穫となった。サイエンスも人間のやることなので、人と人の繋がりはとても大事であり、今回のシンポジウムでこの様な交流の機会を与えていただいたことに大変感謝している。
Program
Day 1  
March 22 (Wed)  
12:00 ~ 13:00 Registration
   
Opening Remarks  
13:00 ~ 13:10 Jared Toettcher (Princeton U.) and Hideaki Takayanagi/Naoto Ueno (NINS, IRCC-QIB)
   
Session 1 Subcellular organization Chairs: Jared Toettcher and Naoto Ueno
13:10 ~ 13:40 Complex Fluids: Nuclear Condensates in Physiology and Disease
  Cliff Brangwynne
   
13:40 ~ 14:10 Intra- and inter-cellular communication during viral infection
  Ileana Cristea
   
14:10 ~ 14:25 Dynamics of phase-separated ZO-1 condensates and their effects on cell migration 
  Sayuki Hirano (from poster #1)
   
14:25 ~ 14:40 Harnessing optogenetics to modulate and understand biomolecular condensates
  Ellen Brumbaugh-Reed
   
14:40 ~ 15:10 COFFEE BREAK at the atrium
   
Session 2 Mechanobiology Chair: Naoto Ueno
15:40 ~ 16:10 Nutritional control of thyroid morphogenesis
  Asako Shindo
   
16:10 ~ 16:40 The mechanics of tube folding
  Celeste Nelson
   
16:40 ~ 17:10 Did the tape run twice? Morphogenesis of amoebozoa Dictyostelium - cell polarity, cell migration and cell rearrangement
  Satoshi Sawai
   
17:10 ~ 17:25 Inference of effective mechanical potential of cell-cell interactions during embryogenesis
  Hiroshi Koyama (from poster #2)
   
17:25 ~ 17:40 Special Presentation for Young Investigators:
  NIH Funding Opportunities for Trainees and New Investigators
  Reiko Toyama
   
17:40 ~ 19:30 Poster Presentations
  Light meal served
  (speakers and poster presenters only)
#1  Sayuki Hirano (NIBB, Japan )
  Dynamics of phase-separated ZO-1 condensates and their effects on cell migration
#2  Hiroshi Koyama (NIBB, Japan )
  Inference of effective mechanical potential of cell-cell interactions during embryogenesis
#3  Yusuke Mii (ExCELLS/NIBB, Japan )
  Mutual regulations between Wnt and core PCP components establish planar cell polarity
#4  Toshikazu Miyata (NIPS, Japan )
  Structural covariance and heritability of the white matter tract and cortical area in the visual system of living humans
#5  Dawei Liu (Mol. Bio., Princeton U.)
  IFI17 phase separation via multi-phosphorylation drives innate immune signaling
#6  Ellen Brumbaugh Reed  (Moi. Bio., Princeton U. )
  Harnessing optogenetics to modulate and understand biomolecular condensates
#7  Sarah Gernhart  (Chem., Princeton U. )
  Complex System Chemical Dynamics
#8  Tomohito MInakuchi (PNI, Princeton U. )
  Independent inhibitory control mechanisms for aggressive motivation and action
Day 2  
March 23 (Thu)  
Session 3 Developmental gene regulation Chairs: Michael Levine and Yasuko Akiyama-Oda
9:00~ 9:30 Long-range connectivity of the regulatory genome
  Michael Levine
   
9:30~ 10:00 Reconstruction of segmented body pattern in single-nuc analysis of spider embryos
  Yasuko Akiyama-Oda
   
10:00~ 10:30 Dynamics of transcription hubs in the Drosophila embryo
  Takashi Fukaya
   
10:30 ~ 10:50 COFFEE BREAK at the atrium
   
Session 4 Single-molecule biophysics Chairs: Haw Yang and Ryota Iino
10:50~ 11:20 Complex system chemical dynamics
  Haw Yang
   
11:20~ 11:50 Engineering rotary and linear molecular motor proteins
  Ryota Iino
   
11:50~ 12:05 Time-resolved 3D multi-resolution imaging: Design, construction, and applications
  Tian Zao
   
12:05 ~ 13:00 Lunch at the atrium of LSI
   
Session 5 Cell signalingChairs: Denelle Devenport and Kazuhiro Aoki
13:00~ 13:30 Multiscale coordination of planar cell polarity
  Danelle Devenport
   
13:30~ 14:00 Quantitative analysis of cell cycle by live-cell imaging and optogenetics
  Kazuhiro Aoki
   
14:00~ 14:30 Towards light-guided embryogenesis: optogenetics and biosensors to probe developmental patterning
  Jared Toettcher
   
14:30~ 14:45 Mutual regulations between Wnt and core PCP components establish planar cell polarity
  Yusuke Mii (from poster #3)
   
14:45 ~ 15:20 COFFEE BREAK at the atrium of LSI
   
Session 6 Neurobiology Chairs: Fenna Krienen and Nobuyuki Shiina
15:20~ 15:50 Single cell sequencing to reveal influences of evolutionary and developmental lineage on primate brain cell types
  Fenna Krienen
   
15:50~ 16:20 ILF3 prion-like domain regulates gene expression and fear memory under chronic stress
  Nobuyuki Shiina
   
16:20~ 16:35 Independent inhibitory control mechanisms for aggressive motivation and action
  Tomohito Minakuchi (from poster #8)
   
Closing Remarks  
16:35~ 16:50 Michael Levine (LSI, Princeton U.)