基礎生物学研究所
2012.12.13
基礎生物学研究所 高次細胞機構研究部門の山田健志助教,西村幹夫教授らの研究グループは,植物の防御のためのオルガネラ,ERボディの膜に特異的な膜タンパク質を同定しました.ERボディの形成と機能の解明につながる成果です.この成果は2012年11月19日にPlant Physiology誌のオンライン版にて発表されました.
[研究の背景]
ERボディは小胞体から分化するオルガネラで,アブラナ科植物の実生や根の細胞に蓄積します.ERボディにはβグルコシダーゼという酵素が大量に蓄積しており,病害や虫害抵抗性に関わる低分子化合物を生成します.このことから,ERボディは病害や虫害に対する防御のためのオルガネラと考えられています.一般的に,小胞体は分泌タンパク質の合成の場と考えられており,この小胞体からどのようにしてβグルコシダーゼを大量に蓄積した防御のためのオルガネラが形成されるかは大きな疑問です.ERボディは,小胞体と異なり,ふくらんだ構造をしていますので,その膜成分に何か特徴があると思われます.しかし,これまではERボディの膜タンパク質が小胞体と同じ成分か,それともERボディ特異的な膜成分があるのかは不明でした.そこで,本研究ではERボディの膜タンパク質に着目して研究を行いました.
[研究の成果]
転写制御因子NAI1を欠損した植物ではERボディが無くなります.そこで, nai1欠損株において発現が低下している二つのホモログである膜貫通タンパク質を見いだし,MEMBRENE OF ER BODY 1 (MEB1),MEB2と名付けました.MEB1,MEB2の局在を調べたところ,これらのタンパク質はERボディの膜に局在し,小胞体には局在しませんでした(図1).このことから,ERボディには特異的な膜タンパク質があることがわかりました.MEB1,MEB2はERボディ内に局在するタンパク質,NAI2と複合体を形成します.この複合体の形成により,MEB1,MEB2はERボディにとどまっていると思われます(図2).MEB1,MEB2は鉄・マンガンイオン輸送体とホモロジーがあります.そこで,酵母を用いてMEB1,MEB2の鉄・マンガンイオン輸送能を調べたところ,これらのタンパク質は鉄・マンガンイオンともに輸送する能力があることがわかりました.このことから,ERボディは細胞内の鉄・マンガンの調節に関わる可能性が出てきました.
今回,新しくER ボディ特異的な膜タンパク質が同定されたことで,ERボディ形成の仕組みに近づくとともに,新たにERボディと金属イオンという視点が生じました.ERボディは根に多く蓄積しますので,ERボディが病害や虫害に対する防御だけではなく土壌の金属ストレスに関わる可能性も考えられます.今後,ERボディを利用した植物防御機構や環境ストレス耐性機構の解明が進むことが期待されます.
図1.MEB1,MEB2はERボディに局在する
小胞体とERボディを緑色蛍光タンパク質で可視化したシロイヌナズナ(ER-GFP)に,赤色蛍光タンパク質を融合したMEB1,MEB2タンパク質を発現させたときの蛍光像.MEB1とMEB2はERボディ膜に蓄積していることがわかる.
図2.ERボディ形成のモデル
NAI1転写制御因子によりNAI2,MEB1,MEB2が発現する.NAI2とMEB1,MEB2が複合体を作ることによってMEB1,MEB2がERボディ膜にとどまる.
[発表雑誌]
Plant Physiology
論文タイトル:
Identification of two novel endoplasmic reticulum body-specific integral membrane proteins.
「2つの特異的なERボディ膜貫通タンパク質の同定」
著者:
Kenji Yamada, Atsushi J. Nagano, Momoko Nishina, Ikuko Hara-Nishimura, Mikio Nishimura