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2009.12.04

「事業仕分け」に関して基礎生物学研究所長 岡田清孝のコメントを掲載します

 11月中旬から月末にかけて行われた政府の行政刷新会議の仕分け作業は、経費の重複や非効率的な経費使用などを見出し、国民の目に見える形で施策の転換を図る手法として価値のある作業と思います。従来の慣習に切り込んだ有意義な議論もありました。税収入が減少している状況なので、無駄な部分を削ることは大きな意味があります。

 

 

 今回の仕分け作業の俎上に上がった事業の中には、大学や研究所における科学研究と教育を進める上できわめて重要な事業がいくつもあります。これらの事業についても軒並み予算の縮減と結論づけられたことに、私達科学研究者は、深い憂慮の気持ちを持っています。

 

 例えば、事業番号3-20 競争的資金(先端研究)、事業番号3-21 競争的資金(若手研究者育成)、事業番号3-39 科学技術振興調整費 (女性研究者支援システム改革) 、事業番号3-51 国立大学運営費交付金 などに対して、「制度の見直し」や「予算縮減」と評価されました。

 

 科学研究は、自然が示す複雑かつ精緻な仕組みを解明し、人類の知的好奇心を満たす基礎科学であるとともに、産業の基盤として国民生活の向上および経済の発展に大きく寄与するものです。我が国の持続的発展にとって科学研究の発展が必要不可欠であることは、いうまでもありません。我が国のみならず諸外国における科学研究は、国や機関の定める研究プロジェクトに沿った Top-down型研究と、研究者の自由で自発的な発想に基づいた Bottom-up型研究の二者によって支えられており、この二者は科学研究と教育に対する相補的な役割を担ってきました。真に独創的で革命的なイノベーションを引き起こす研究は、しばしばBottom-up型研究から生まれることもよく知られています。大学や研究所における科学研究の水準を高く保つために必要な研究資金を削減することは、科学立国としての我が国の将来を危うくすることになるでしょう。


 また、我が国の科学研究の能力の向上と維持のために、若手研究者の育成が必須であることは言うまでもありません。博士学位を持つ若手研究者(ポストドク)の職は、独立した研究者となる前の重要なトレーニングとして世界標準として広く認められた研究者育成制度であって、ポストドク研究者を「研究職に就けない若手研究者として救済の対象と見なす」ような仕分け作業での見方は基本的な誤りです。女性研究者の活躍の場を広げることも重要で、我が国はまだまだ遅れています。

 

 あまりに複雑になった制度を見直して、分かり易く透明性の高い制度に代えることは、意味のあることです。しかし、今回の事業仕分け作業においては、制度改正と科学研究振興の意義の区別がなされておらず、性急に予算縮減に結びつける結論の出し方が非常に乱暴で粗雑な印象があります。仕分け作業の結論が今後の国の施策として実施されると、学術研究の熾烈な国際競争に敗れ、日本社会の発展を阻害することになるのではないかと強い危惧を覚えます。

 

大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 基礎生物学研究所
所長 岡田清孝