基礎生物学研究所
2004.12.20
大脳皮質は、哺乳類の脳で急速に進化しましたが、ヒトを含め霊長類では、視覚野と連合野が殊に良く発達しており、霊長類の脳に特徴的な高次脳機能に重要な役割を果たすと考えられています。脳生物学研究部門では、霊長類の大脳皮質領野に特異的に発現する遺伝子の解析を行っており、これまでにも、霊長類の視覚野や運動野に特異的に発現するocc1遺伝子等を報告してきました。今回、小松勇介研究員等は、Rbp (Retinol-binding protein)が連合野で強く発現することを初めて報告しました(Yusuke Komatsu, Akiya Watakabe, Tsutomu Hashikawa, Shiro Tochitani, and Tetsuo Yamamori; Retinol-binding Protein Gene is Highly Expressed in Higher-order Association Areas of the Primate Neocortex. Cerebral Cortex 2006 15, Janurary, 96-108)。Rbpは、レチノールと結合して、細胞内に運ばれ、レチノールはそこでレチノイン酸に代謝されます。レチノイン酸は、神経系や他の体組織の形態形成に重要な役割を果たすことが良く知られていますが、成熟した脳における役割は全く未知でした。それは、レチノイン酸が低分子で拡散性が高いので、脳内における組織化学的な分布を正確に知ることが困難ことによります。今回、Rbpが連合野に特徴的に限局して発現することが示されたことによって、Rbpやレチノイン酸とその代謝が連合野の形成と機能維持に重要な役割を果たしていることが示唆され、今後、連合野の形成と機能の分子レベルからの解明の重要な糸口になることが期待されます。
http://cercor.oupjournals.org/cgi/content/abstract/15/1/96