基礎生物学研究所
2004.05.14
「生物の設計図、ゲノムが崩れるのを防ぐ新しいメカニズムの解明」
― 姉妹の堅い絆で危機を回避 ー(Cell, vol.117, May 14, 2005.)
小林武彦助手、堀内嵩教授(遺伝子発現統御第二部門)はカリフォルニア大アーバイン校・野村眞康博士との共同研究で、ガン化や老化の原因となる異常なゲノムの改変の抑制機構として、DNA複製後の倍加した染色体(姉妹染色分体)を細胞分裂時までつなぎ止めるコヒーシンと呼ばれるタンパク質複合体が重要な働きを果たしていることを発見し、5月14日発行のCell誌に発表した。
真核細胞のゲノムには多くの繰り返し遺伝子(増幅遺伝子)の存在が知られている。それらの遺伝子はそのコピーを増やすことで、1)環境変化に対する適応能力を獲得し、2)分化した細胞では特定タンパク質の多量生産が可能にし、また3)進化の過程においては相同性のある一連の遺伝子群(遺伝子ファミリー)の形成に関与してきたと考えられている。中でもタンパク質合成に関わるリボソームRNA遺伝子は、細胞あたり数百のコピ?存在し、多量のタンパク質合成を行うことで、細胞の大型化を促進してきた。しかし一方で、この増幅遺伝子は他の遺伝子に比べて安定性が悪く、DNA複製時に細胞老化やガン化の原因となるゲノムの異常な組み換えを引き起こす「ホットスポット」になると考えられている。今回小林らは、出芽酵母のリボソームRNA遺伝子の安定性は、姉妹染色分体が強く寄り添うことで、ゲノムの改変を引き起こす「有害な」組み換えを防ぎ、常にその姉妹間の「無害な」組み換えを積極的に誘導する機構が存在することを解明した。本発見は細胞の老化及びそれに伴うガン等の発生メカニズムを分子レベルで解明する手がかりになると期待される。
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