ニュース

お知らせ

2002.09.09

遺伝子発現統御第一部門・飯田滋教授、寺田理枝助手らが相同組換えによるイネの遺伝子ターゲティングに初めて成功

遺伝子発現統御第一部門・飯田滋教授、寺田理枝助手らは相同組換えによるイネの遺伝子ターゲティングに初めて成功し、Nature Biotechnology10月号（9/9付け電子版公表）に掲載されます。

［背景と研究成果]
ヒトを初め多くの生物種でゲノムプロジェクトが進展し、明らかにされた配列のもつ意義や予測される未知遺伝子の機能を解明する機能ゲノム学（Functional Genomics）による解析が急務となってきている。このような既知の遺伝子の配列を改変しその遺伝形質を解析して遺伝子の機能を探ろうとする逆遺伝学（Reverse Genetics）の手法の中で、相同組換えを利用してゲノム上の任意の配列を予めデザインした配列と置き換える遺伝子ターゲティング（Gene targeting）は、酵母や ES 細胞を用いたマウスでは確立した手法として広く用いられて種々の研究成果があげられている。しかしながら、植物では“ヒメツリガネゴケ”で行なわれているだけで、高等植物のモデル植物として最もよく研究され、全ゲノム配列が決定されている双子葉植物の“シロイヌナズナ”においても、再現よく任意の遺伝子を改変することに成功してはいない。
　世界の全人口の約半数の人々の主食で、単子葉植物、特に穀類のモデル植物である“イネ”は、この春にドラフト配列が公表され、今年中には愛知県で作出された「日本晴」の完全な配列決定も予定されているので、まもなくその全貌が明らかになり、イネも機能ゲノム学的解析の時代に突入する。公表されたイネのドラフト配列を調べると、シロイヌナズナの遺伝子の大半はイネにもあるが、イネで予想される遺伝子の約半分はシロイヌナズナにはないユニークな配列であった。シロイヌナズナですら大半の遺伝子は実験的には未解析の状態であり、得られたイネの配列情報を基に逆遺伝学的手法により未知遺伝子を改変し、その機能を解明することが急務となっている。
　このような状況下で、我々は約５年の歳月をかけて、先ず従来の約50〜100倍の超高率のイネ形質転換法を開発して導入ベクターを工夫し、相同組換えによる遺伝子ターゲティングの開発に世界で初めて成功し、食味とモチ性に係るイネ Waxy 遺伝子の改変を再現性の高い実験系として確立した。すなわち、合計６回の実験により独立に６個体の相同組換えによってWaxy 遺伝子が改変された形質転換イネを得た。得られた６個体のイネは、いずれも１対の染色体上の片方の Waxy 遺伝子だけが予めデザインし導入した改変 waxy 遺伝子の構造に変換されていた。しかもシロイヌナズナなどで観察された意図せぬ標的の Waxy 遺伝子以外の領域でのDNA再編成や標的遺伝子領域での非相同組換えは全く起ってはいなかった。また次世代への改変 waxy 遺伝子の伝達様式も野生型Waxy 遺伝子とのヘテロから予測される通りのメンデル遺伝であり、さらに自植次世代の改変 waxy ホモ個体の waxy 遺伝子領域の塩基配列を決定して、正確な相同組換えが起こっていることを確認した。我々のターゲティングの手法は原理的にはイネも含めて高等植物の任意の遺伝子に応用可能で、１対の染色体上の片方の遺伝子だけを改変できるので、遺伝子ターゲティングにより改変した変異が劣性ホモの場合は致死となる変異体の分離も可能である。
我々が今回成功した再現性のある相同組換えによる遺伝子ターゲティングによって、ゲノム配列の決定が進行しつつあるイネの未知遺伝子の機能解明が加速し、“イネとはどのような機能を潜在的に持つ植物であるか”との問に対する有用な知見が得られるものと思われる。

写真

1a 遺伝子ターゲティングによってWaxy遺伝子が改変されたイネの葯　（淡褐色に染まるモチと濃く染まるウルチの花粉が１：１で見える）
1b 1aで示したイネの葯中の花粉　（モチとウルチが１：１で見える）
2 遺伝子ターゲティングによってWaxy遺伝子が改変されたイネの次世代の種子　（切断面をヨーソ液で染色すると淡褐色に染まるモチと濃く染まるウルチが１：３に分離したのが判る）
3 Waxy遺伝子が改変されたイネのカルスから再生してくる幼胚(ひとつの改変カルスから多数の再生胚が得られる）
4 3.の実生が成育し結実しているイネ
5 Waxy遺伝子が改変されたイネの穎花