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2001.03.16

情報制御・和田教授、加川さきがけ研究員らが葉緑体が強光から逃避するための光受容体を解明

葉緑体が強光から逃避するための光受容体の解明

真夏の日中のように光が強すぎるとき、植物は細胞内の葉緑体を避難させ、葉緑体が光によって障害を受けないようにしている。この強光の認識にはNPL1と言われる青色光を吸収する色素タンパク質が関与していることが、東京都立大学、基礎生物学研究所の和田正三教授、加川貴俊さきがけ研究員のグループと京都大学、RIKENの岡田清孝教授、酒井達也チームリーダーのグループの共同研究で明らかになった。

1 背景
 植物は、水と炭酸ガスという無機物から光のエネルギーを使って有機物と酸素を作る。ほとんどの動物や菌類は直接的、間接的にこの光合成を通して植物が作り出す有機物に依存して生命を維持している。植物の光合成は地球上の全生命の維持と地球環境の保全に必須の作用である。
 光合成は主に植物の葉の細胞に存在する葉緑体によって行われている。光合成を効率的に行うためには個々の植物に最適強度があり、その様子は生育環境に現れる。強い光を好む植物は日向に、弱い光を好む植物は樹木の下など、日陰に生息する。また同じ成育環境でも、天侯により、時間によって光の強さには変化があるため、植物はその光環境に応じて細胞内の葉緑体の位置を変えることにより、光合成効率を最適に保つような機構を備えている。弱光下では光を十分吸収できるように、葉緑体は細胞の葉の表面側の壁に集まってくる。一方強すぎる光の下では光による障害を裂けるために葉の表面と直行する壁、すなわち光線と平行な壁側に移動し、互いに寄り添って太陽の光線を避ける。
 この現象は種子植物から緑色の藻類に至るまで、調べられた限りでは全ての植物で確認されており、植物の生存にとって非常に重要な生理現象であると考えられる。すでに18世紀から知られていたが、そのメカニズムは良く分かっていない。

2.研究成果
 この機構を解明するために、全ゲノム解析が終わったシロイヌナズナをモデル植物とし、我々は葉緑体の運動が欠損した突然変異体を多数単離した。その中に強光下でも葉緑体の運動が見られないもの4系統を選び出し、その原因遺伝子を調べた結果、シロイヌナズナの光屈性反応の光受容体として1997年に米国のW.R.Briggsのグループが報告している青色光受容色素・フォトトロピンのホモログの、既に報告はされていたが機能の分かっていなかったNPL1であった。この遺伝子が破壊された突然変異体を、かずさDNA研究所のコレクションから選抜し調べた結果、その系統では葉緑体が強光下では移動ができない、という同じ現象が見られ、この遺伝子がコードするタンパク質が明らかに強光の認識に関与していることが判明した。
 この遺伝子がコードするタンパク質は、青色光を受容するための色素団として、N末端側にフラビン色素であるフィラビンモノヌクレオチド(FMN)を2分子もち、さらにC末端側にタンパク質をリン酸化するための配列を持つ特異な構造をしていることが報告されている。
 この遺伝子の突然変異体では強い青色光を照射しても葉緑体は逃げず、むしろ寄ってきてしまうという現象がみられ、弱い光の下での葉緑体の集合現象の解明の糸口にもなると考えられる。また他の青色光による反応も調べたが、開花時期や、胚軸の伸長などには影響がなかった。
 種子植物が持つ青色光受容体には他にクリプトクロムが2種類報告されている。今回の成果によって多々ある青色光に依存した植物の生理現象が、少なくとも4種類の青色光受容体によってそれぞれ分担されている様子が明らかになってきた。

3 今後の展開
 細胞内で葉緑体の位置を変える葉緑体運動は、合目的に見て植物の効率的な光合成にとって重要であることは確かであるが、その効果の程は未だに証明されてはいない。その原因の一つは今までに葉緑体運動が欠損した突然変異体で得られていなかったため、実験による証明ができなかったことである。第二に、植物は葉緑体が光合成に必要以上な強光を受けたときに生産される活性酸素などの毒物を消去する機構を備えており、研究者の多くはその機構の解明に力を注いできたからである。しかし植物には、実際に強光を受けて活性酸素などの毒物ができるまえに、安全策として葉緑体を退避させるという事前の策を講じているらしい。
 今後は葉緑体の強光に対する逃避運動が光合成活性の効率化に本当に役立っているのか、もし役立っているとすれば、植物が強光に対してどの位の安全度を持って、事前に移動しているか、などを調べることによって、この遺伝子を植物の生産性に利用する道もあると考えられる。


補足説明
 光屈性(ひかりくっせい):植物には光に向かって曲がる性質がある。光合成を効率的に行うために、茎を光の方向に曲げ、葉の基部をねじって葉が光線となるべく直行するように配置するための現象である。この現象には青色光が関与しており、光受容体の一つはフォトトロピンという色素タンパク質であることが分かっている。
 活性酸素:光合成に使用されなかった過剰の光エネルギーによって酸素分子が還元され、反応性が高くなった状態の酸素。スーパーオキシド・ラジカルO2、過剰化水素H2O2、ヒドロキシ・ラジカルOHなど。

写真

 

2001.jpeg突然変異体の単離の方法を用いて、野生型のシロイヌナズナの葉に、光受容体であるNPLという字を描いた。しかし、突然変異体ではこのような字は描けない。

掲載新聞・雑誌・書籍一覧

2001/03/16  日刊工業新聞
2001/03/16  中日新聞
2001/03/18  The Japan Times
2001/03/19  読売新聞(夕刊)
2001/03/23  朝日新聞(夕刊)
2001/03/16号 Science