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2000.10.17

感覚情報処理・野田教授と形質転換研究施設・渡辺助教授らの研究グループが塩分の濃度検出機構を発見

脳で働く塩分センサー~塩分を過剰摂取するマウスの発見~

 体液の塩分バランスの維持は、生命活動おいて重要である。例えば、長期間にわたる塩分の摂りすぎは、塩分バランスを崩し、高血圧など種々の疾患の誘因になることが知られている。すなわち、塩分摂取行動の制御は、生物学的にも医学的にも極めて重要な研究課題である。
 体液の塩分バランスを一定に保つために、脳には塩濃度を正確に検出するシステムが内在すると考えられる。しかし、その実体はこれまで全く不明であった。我々の研究グループは、遺伝子発生工学的手法によって、ナトリウムイオンを細胞内に透過させる働きをもつイオンチャンネルの一種(Nav2)が、脳で働く塩分センサーの候補分子であることを発見した。我々は、まずNav2が脳の中でも脳室周囲器官(※1)と呼ばれる塩濃度の検出にあずかる領域に特異的に発現していることを明らかにした。次に、Nav2遺伝子欠損マウスでは、この脳室周囲器官の活動が異常に亢進していることを発見した。またこのマウスは、本来塩水を積極的に摂るべき塩分欠乏時において、野生型マウスに較べて異常に多量の高濃度の塩水を摂取した。逆に高濃度の塩水の摂取を避けるような渇水時においても、高濃度の塩水を飲み続けるという異常な行動を示した(※2)。すなわち、脳室周囲器官に発現しているNav2は、体液中の増加した塩分を検出し、塩分の摂取行動を抑制している塩分センサーであると考えられる。実際に、マウスから神経細胞を取りだして解析したところ、細胞外液のナトリウムイオンの上昇に伴ってナトリウムイオンを細胞内に透過させる活性が、Nav2遺伝子欠損マウスでは完全に欠損していることが明らかとなった(※3)。
 今回の我々の研究によって、生体内での役割が全く分からなかったイオンチャンネルの機能が脳における塩分検出機構にあることを、世界に先駆けて発見した。塩分を過剰摂取するという性質を持つマウス自体が類を見ない。そのため、Nav2遺伝子欠損マウスは、脳の塩分検出機構の全貌解明へ向けての重要なモデル動物となる。また、Nav2の特異的な活性化剤や阻害剤は、塩分摂取の制御薬となり得るため、Nav2遺伝子欠損マウスは、こういった薬品開発へ向けて道を開くものである。
野田昌晴 基礎生物学研究所  教授
渡辺英治 基礎生物学研究所 助教授
山本隆 大阪大学・人間科学部 教授

 

掲載新聞・雑誌・書籍一覧

 

2001/10/17 日刊工業新聞
2001/10/17 中日新聞
2001/11/3 科学新聞(ダイジェスト)
2000/10/15号 J.of Neuroscience

関連ファイル

※1 脳における塩分濃度検知部位:脳室周囲器官
※2 渇水状態で異常に高張塩水を摂取するNav2欠損マウス
※3 Nav2イオンチャンネル=塩分センサー仮説