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大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

基礎生物学研究所

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研究報告

2012.01.13

Analysis of medaka sox9 orthologue reveals a conserved role in germ cell maintenance.

[研究の背景]

 脊椎動物は必ず雌か雄になります。受精卵から身体ができる過程で、雌雄のどちらかに決まることを性決定と言い、この決定に従って身体は雌あるいは雄へと分化します。これを性分化と言います。この性決定はいくつもの遺伝子が関わるシステムとして働いています。このシステムの中でも最初のきっかけは、遺伝子によるもの、環境によるものなど、動物によってさまざまで、動物固有の状況によって異なると考えられています。ところがこの性を決めるシステム全体が動物によって異なるのか、あるいはきっかけの部分のみが異なるかは不明でした。今回、どの脊椎動物にも共通して存在するsox9遺伝子に着目して解析を行いました。この遺伝子は雌雄の哺乳類いずれにも存在しますが、雄の生殖腺でしか働かず、雄への性決定システムの中で重要な役割を果たしていることが知られています。この遺伝子が壊れるとマウスでは雌へと性転換します。一方のメダカでは、卵や精子を作り続けることのできる生殖幹細胞が存在する周りの細胞(ニッチ)で発現していることが知られています。この遺伝子をメダカで解析することで、その機能と性決定システムへの関与を調べました。

 

[研究の成果]

 研究グループは、メダカsox9 の機能が失われた突然変異体を単離し(図1)、どこがおかしくなるかを調べることによりsox9 の機能を解析しました。

 

fig1.jpg

図1: sox9機能の失ったメダカ。雄へと性転換する。

 

 メダカは遺伝子によって性の決まる動物で、Y染色体上の性決定遺伝子(DMY)があると雄になります。通常は決して性転換しません。哺乳類ではY染色体上の性決定遺伝子Sryの指示を受けて雄のみで発現し、Sox9遺伝子がないと雌化を引き起こし、Sryがない状態でSox9を働かせると雄化を引き起こします。したがって哺乳類ではSox9は雄へと性決定するシステムできわめて重要な遺伝子と理解されています。

 ところがメダカでsox9 の機能が失われると、哺乳類の Sox9 変異体とは逆に雄へと性転換する個体が出現することが判りました。このとき、雄になるための遺伝子が働き始め、雌になるための遺伝子は働かなくなることが確認されました。このことはメダカの雄化にはsox9 遺伝子が必要でないことを示しています。このことをさらに確かめるために、雌個体(Y染色体を持たない)にsox9遺伝子を導入してみましたが、哺乳類とは異なり雄化を引き起こしませんでした。以上は、メダカではsox9が雄への性決定システムに関与しておらず、性決定システムそのものが哺乳類とは異なることを示しています。

 それではメダカではsox9はどのような機能を持っているのでしょうか?sox9の機能が失われたメダカでも生殖腺は形成され精子や卵形成が進行します。ところが、卵や精子の元の細胞である生殖細胞は時を経るにつれて失われることが判りました。さらに調べてみると、細胞同士の接着や相互作用に関する細胞外マトリックスと呼ばれる成分の量や配置がおかしく、実際sox9遺伝子を失ったメダカと正常なメダカとの間でキメラメダカを作製すると、sox9遺伝子を失ったメダカの細胞は生殖細胞との相互作用が正常の細胞より著しく弱まっていることが明らかとなりました。

 次になぜ、sox9遺伝子機能が失われると哺乳類とは逆の雄への性転換がおきるのかを調べました。以前我々は遺伝子で性が決まるメダカでも、生殖細胞と周りの細胞とのバランスがくずれると性転換をおきることを示しました。そこで私たちはsox9突然変異体でも生殖細胞が失われた結果バランスがおかしくなり、その結果、雄へと性転換してしまうのではないかと仮説を立てました。これを検証するためにsox9突然変異体で生殖細胞の数を元に戻すことを行いました。すると生殖細胞数が元に戻ったメダカではたとえsox9遺伝子が働いていなくても、Y染色体があれば雄となり、Y染色体がないと雌となって性転換はおきませんでした。

 

  メダカsox9遺伝子は、雄でのみ発現する哺乳類とは異なり、生殖幹細胞の存在するニッチ構造で雌雄ともに発現します。今回の結果によりsox9はこのニッチ構造で生殖細胞を維持するのにきわめて重要な役割を持つことが明らかになりました。さらにゼブラフィッシュでも同様な発現が認められ、マウスにおいてもSox9は生殖細胞維持に影響を与えることが示唆されています。従ってsox9遺伝子の生殖細胞維持機能は脊椎動物共通の機能であり、哺乳類ではこの機能に加えて進化の過程で独自の雄性決定のシステムにとりこまれて機能付加がおきたと考えられます。その結果、哺乳類の卵巣でSox9遺伝子の発現が失われて生殖幹細胞が確立維持されず、メダカの卵巣との違いをもたらしたと考えられます(図2)。

 

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図2: 哺乳類独自の性決定システムにとりこまれたsox9機能が生殖腺構造の差をもたらす。

 

 本研究は、慶応大学医学部谷口善仁博士と遺伝学研究所豊田敦博士との共同研究です。

 

[論文情報]

「PLoS ONE」


"Analysis of medaka sox9 orthologue reveals a conserved role in germ cell maintenance."

Shuhei Nakamura, Ikuko Watakabe, Toshiya Nishimura, Atsushi Toyoda,Yoshihito Taniguchi and Minoru Tanaka