プレスリリース

オオバコの仲間は雑種だらけ

基礎生物学研究所プレスリリース「オオバコの仲間は雑種だらけ」を9月1日に発表させていただきました。リリースの文には、色々と形式的な決まり事があり、それに合わせて調整しますが、ここでは塚谷裕一ご自身の文章をご紹介します。
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「オオバコの仲間は雑種だらけ」

 このたび私たち、基礎生物学研究所、山形大、東大の研究グループは、道端に生えて、踏まれても踏まれても丈夫に育つことで世界的にも身近な雑草、オオバコの仲間について遺伝子解析を行った結果、おどろくほど多くのオオバコ属植物が、互いに複雑に入り組んだ雑種の関係になっていることを明らかにしました。

 全体を抽象的にご説明する前に、わかりやすい具体例をあげてみます。

 日本で見られるオオバコ属には、日本古来のオオバコと、帰化種のセイヨウオオバコとがあります。これら2種は互いによく似た種で、いろいろな図鑑に区別点が書かれてはいますが、実際には区別が非常に困難です。私たちの遺伝子解析の結果、区別が難しいのも当然であることが、わかりました。つまりオオバコは、セイヨウオオバコと、未知の別の種との間でできた雑種に由来する種類だったのです。

fig1 オオバコ

fig2 セイヨウオオバコ

 さらに面白いことに、南西諸島に見られるオオバコ類似の種類については、以前から、タイワンオオバコという別種にする考えのほか、オオバコであるという見解と、セイヨウオオバコであるという見解とがありました。これを調べてみたところ、南西諸島に分布する種類は、すでに雑種であるオオバコに、もう一度セイヨウオオバコが交雑した種が起源となっていることがわかりました。南西諸島の種が、オオバコにもセイヨウオオバコにも似ていて、人によって意見が分かれるのは当然だったのです。

fig3 タイワンオオバコ
 
 以上は今回わかった新事実の、ほんの一部の例です。ここで、今回明らかになったポイントをご説明します。
 
 まずオオバコの仲間、オオバコ属の中の非常に多くの種は、ゲノムのセットを4つ以上持っていること、つまり高次の倍数体となっていることが、これまでも知られていました。今回の私たちの解析の結果、その秘密は、繰り返し起きた雑種形成であることがわかりました。一般的に、異なる種の間でできた雑種は、種をつけることができません。これは、異なるゲノムのセットを1つずつ持っているため、それを半分に分けることができず、そのために花粉や卵を作ることができないからです。しかしその雑種が倍数化してゲノムのセットを2セットずつ持つようになれば、それを半分に分けて花粉や卵を作ることができるようになり、その結果として種子も作れるので、新たな種として繁殖をし始めるようになります。オオバコとセイヨウオオバコの交雑でできた南西諸島の種(タイワンオオバコと言います)も、こうして交雑後、ゲノム倍化によって自立するようになった種だと考えられます。オオバコ属は、こうしたプロセスを何度も何度も繰り返し、世界に分布を広げながら多様な種に進化してきたことが、今回、判明しました。ふつう、生物の系統樹は、木の枝のように、末端に行くほど細かく分かれていくものですが、このように、いったんほかの種に分かれたもの同士が交雑を繰り返し、網目状に進化が進む現象を、網状進化といいます。オオバコ属は、網状進化の典型例だったのです。
 
 今回の結果を整理してみると、図のように、オオバコ属の中は、非常に入り組んだ親戚関係をなしていることがわかります。オオバコ属は、形態的な特徴からさらにいくつかの節に分けられてきたのですが、その間ですら交雑が起きたようです。たとえば日本にもあちこちに帰化しているツボミオオバコも、2つの異なる節の間の交雑から生じたものでした。
 
 こうしたことが、これまで気づかれていなかったのは、互いに形態的によく似た種を、むりやり形で分類してきたこと、それと、雑種を調べるのには不適当なDNA配列をつかった解析しかなされてこなかったことにあります。今回、私たちは、雑種の関係を決めるのに適切な新たなDNA配列情報を使い、以上のような新しい知見を得ることができました。
 
 研究にあたったのは、基礎生物学研究所の博士研究員である石川直子博士、山形大学准教授の横山潤博士、そして私からなる研究チームです。
 
 以上の成果は、アメリカ植物学会が編集する国際誌、American Journal of Botany誌に掲載されました。

(文)塚谷裕一 (写真)石川直子