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大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

基礎生物学研究所

研究部門・施設

研究者情報

亀井 保博
RMC教授
亀井 保博
KAMEI, Yasuhiro
所属:

研究の概要

熱・温度の生物学的意義の解明を目指して

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左図:細胞の熱ショックストレス応答機構
右図:生体内単一細胞へのレーザー照射のイメージ


熱・温度は生命現象と密接な関係を持つ重要な要素である。当研究室では、熱ショック応答における温度応答的な遺伝子発現メカニズムを解くことで、生物の温度適応戦略に迫る研究を行っている。また、生物にとっての熱・温度について知るためには、生体物質の物理的な温度特性について理解する必要がある。そのために、イメージングベースでの温度計測と赤外レーザーによる局所加熱技術の開発に取り組んでいる。一方、これらの研究成果を基に、赤外レーザーを用いた局所遺伝子発現技術の改良と応用も行っている。

温度の生物学

多くの生物は、熱ストレスから細胞を守る熱ショック応答機構(上図) を持つ。温度と生物のつながりを明らかにするための一つの手段として、熱ショック転写因子(HSF)1に着目し、その温度感知機構と活性化のキネティクスを明らかにするための研究を始めている。メダカ、カエル、シロイヌナズナなど複数の生物種を用いて、比較生物学的視点から HSF1 活性化の分子機構の解明に取り組んでいる。また、温度と生物のつながりを調べるうえで、生体物質の温度物性を知る必要がある。そこで、局所加熱しながら生体内標的細胞の温度計測ができる顕微鏡技術の開発も行っている。これまでに、2 波長の蛍光強度の比から温度計測が可能な蛍光タンパク質プローブ (文献 2) を開発した。さらにこのプローブを使った、高速生体温度イメージング系を局所加熱顕微鏡系に導入(図 1)した。これを用いて生体物質の熱物性解析に挑戦している。

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図1. 生体物質の熱物性解析のための顕微鏡システム
赤外レーザーを照射しながら、標的細胞の温度計測を行う。最高で約 1000 fps でのイメージングを行うことができる。

局所遺伝子発現技術とその改良

熱ショック応答を利用して、熱ショックプロモーターの下流に目的遺伝子を挿入して生物に導入することで、熱ショックによる目的遺伝子の発現誘導が可能になる。そこで、顕微鏡により赤外レーザーを集光照射し生体内の単一細胞を温めることで、目的の細胞のみで目的遺伝子を発現誘導させる(操作する)ことができる技術(Infrared laser evoked gene operator: IR-LEGO 法 : 文献 5)を有している。この光で細胞を操作する技術を用いて、メダカ、ゼブラフィッシュ、シロイヌナズナなどのモデル生物に応用してきた(文献 1, 3, 4)。現在も所外研究者との共同研究を多数実施し、様々な生物種の研究者と交流している。現行の IR-LEGO 法にはいくつかの難しさがあり、それを克服するために、前述の HSF1 研究を通じて IR-LEGO の改良も進めている。この他にも、自作可能でオープンソースなIR-LEGO システムの開発を進め、IR-LEGO を含めた顕微鏡・イメージング・光操作技術の普及も進めている。

研究室関連資料

参考文献

1. Tomoi, T., Tameshige, T., Betsuyaku, E., Hamada, S., Sakamoto, J., Uchida, N., Torii, K.U., Shimizu, K.K., Tamada, Y., Urawa, H., Okada, K., Fukuda, H., Tatematsu, K., Kamei, Y., Betsuyaku, S. (2023). Targeted single-cell gene induction by optimizing the dually regulated CRE/loxP system by a newly defined heat-shock promoter and the steroid hormone in Arabidopsis thaliana. Front. Plant Sci. 14, 1171531.
 
2. Lu, K., Wazawa, T., Sakamoto, J., Quang, C., Nakano, M., Kamei, Y., Nagai, T. (2022). Intracellular Heat Transfer and Thermal Property Revealed by Kilohertz Temperature Imaging with a Genetically Encoded Nanothermometer. Nano Letters 22, 5698-5707.
 
3. Okuyama, T., Yokoi, S., Abe, H., Isoe, Y., Suehiro, Y., Imada, H., Tanaka, M., Kawasaki, T., Yuba, S., Taniguchi, Y., Kamei, Y., Okubo, K., Shimada, A., Naruse, K., Takeda, H., Oka, Y., Kubo, T. and Takeuchi, H. (2014). A neural mechanism underlying mating preferences for familiar individuals in medaka fish. Science 343, 91-94.
 
4. Shimada, A., Kawasishi, T., Kaneko, T., Yoshihara, H., Yano, T., Inohaya, K., Kinoshita, M., Kamei, Y., Tamura, K. and Takeda, H. (2013). Trunk exoskeleton in teleosts is mesodermal in origin. Nat. Commun. 4, 1639.
 
5. Kamei, Y., Suzuki, M., Watanabe, K., Fujimori, K., Kawasaki, T., Deguchi, T., Yoneda, Y., Todo, T., Takagi, S., Funatsu, T., and Yuba, S. (2009). Infrared laser-mediated gene induction in targeted single cells in vivo. Nat. Methods 6, 79-81.

連絡先

亀井 保博 RMC教授 E-mail: ykamei@nibb.ac.jp TEL: 0564-55-7630

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