English

大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

基礎生物学研究所

研究部門・施設

研究者情報

栂根 一夫
助教
栂根 一夫
TSUGANE, Kazuo
所属:

研究の概要

ゲノム再編成と低温における生物学
 

2020_tsugane_main_visual.jpg

DNAトランスポゾンnDart1が転移するコシヒカリ系統から選抜されたイネのLgg変異体は、顕性(優性)の大粒変異である(文献1)。ほ場において栽培し結実した穂(A)と玄米(B)。

ゲノム中には多くの転移因子(トランスポゾン)が存在しているが、その多くは転移できない。しかし稀にゲノムによる抑制をすり抜けて転移できるトランスポゾンが存在してゲノムの再編成を起こしている。どのようにゲノムはトランスポゾンの制御しているのか、また転移によって引き起こされるゲノムの再編成は生物にどんな影響を与えているのかを調べている。他方で生物遺伝資源の保存法の開発を行っている。保存方法の確立できていない生物を対象に、低温・超低温条件下における反応を生体・物質の面から解析し理解することを目指している。

ゲノムのダイナミズム

多くの生物のゲノム中には多くのトランスポゾンが存在している。トランポゾンによるゲノムの再編成は、進化の原動力一つとなっていると考えられるが、トランスポゾンの転移は、ホストのゲノムにとって有害になるので、転移する能力はジェネティックやエピジェネティクに抑制されており、通常の成育条件下で転移する事はまれである。そこで転移できるDNAトランスポゾンに注目して、トランスポゾンによるゲノムのダイナミズムと遺伝子発現の制御機構の解明を明らかにすることを試みている。
 

2020_tsugane_fig1.jpg
図1. nDartの挿入による優性変異の原因の解明(文献3)


我々は自然栽培条件下で活発に転移することができるDNAトランスポゾンnDart1を同定した。nDart1の転移には、自律性因子nDart1が必要であるが、通常はエピジェネテイックに抑制されている。nDart1が活発に転移する時期を明らかにし(文献2)、さらに、脱メチル化によってnDart1を持たないイネ系統でも転移を活性化できることも示した(文献3)。nDart1は、GC含量の差が大きい領域に挿入し易い性質をもっているので、ゲノム中に存在している転移の制御因子の同定に向けて研究を行っている。

トランスポゾンの挿入による優性変異

ゲノムの変異の多くは劣性となるが(文献5)、nDart1の挿入変異体の中にはしばしば優性となる突然変異体が観察される。不完全優性でわい性となるBdt1変異体では機能のあるマイクロRNAの発現様式がnDart1の挿入で変化していた(図1, 文献4)。DNAトランスポゾンが優性変異の原因となる例は非常に珍しく、その原因は未解明な部分が残されているので、優性となった変異体を選抜して解析を行っている。

低温による生物の保存

植物の種子は優れた保存器官であり、種によって寿命は大きく異なるが、環境条件を調えることで保存期間を伸ばすことができる。しかしながら、難保存性の種子もあるので、超低温での保存の可能性について検討している。またカンキツなどは、ゲノムのヘテロ性が高いために種子では有用な形質を遺伝させることができない。これらの植物は茎頂を保存することで系統の保存を行うことが必要となる。カンキツは低温に弱いので、低温に適応させた保存技術の開発を行っている。

共同研究利用の募集

nDartの挿入変異体を利用した研究・植物の種子や組織の低温・超低温保存方法の開発について共同研究に応じることができます。

研究室関連資料

参考文献

1. Chiou, W.Y., Kawamoto, T., Himi, E., Rikiishi, K., Sugimoto, M., Hayashi-Tsugane, M., Tsugane, K., Maekawa, M. (2019). LARGE GRAIN encodes a putative RNA-Binding protein that regulates spikelet hull length in rice. Plant Cell Physiol. 60, 503-515.
 
2. Nishimura, H., Himi, E., Rikiishi, K., Tsugane, K., Maekawa, M. (2019). Establishment of nDart1-tagged lines of Koshihikari, an elite variety of rice in Japan. Breed. Sci. 69, 696-701.
 
3. Nishimura, H., Himi, E., Eun, C.-H., Takahashi, H., Qian, Q., Tsugane, K., Maekawa, M. (2019). Transgenerational activation of an autonomous DNA transposon, Dart1-24, by 5-azaC treatment in rice. Theor. Appl. Genet. 132, 3347-3355.
 
4. Hayashi-Tsugane, M., Maekawa, M., and Tsugane, K. (2015). A gain-of-function Bushy dwarf tiller 1 mutation in rice microRNA gene miR156d caused by insertion of the DNA transposon nDart1. Sci. Rep. 5, 14357.
 
5. Hayashi-Tsugane, M., Takahara, H., Ahmed, N., Himi, E., Takagi, K., Iida, S., Tsugane, K., and Maekawa, M. (2014). A mutable albino allele in rice reveals that formation of thylakoid membranes requires SNOW-WHITE LEAF1 gene. Plant Cell Physiol. 55, 3-15.

連絡先

栂根 一夫 助教 E-mail: tsugane@nibb.ac.jp TEL: 0564-55-7521