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大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

基礎生物学研究所

研究部門・施設

研究者情報

作田 拓
助教
作田 拓
SAKUTA, Hiraki
所属:

研究の概要

体液恒常性維持の脳内機構

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体液情報を感知する2種類のセンサー


体液の浸透圧を一定に保つことは生命を維持するために必須であり、そのため体液中の主要な電解質であるNa+濃度は一定に保たれている(体液恒常性)。体液中のNa+濃度や浸透圧の変動は、脳内の感覚性脳室周囲器官(脳弓下器官や終板脈管器官)と呼ばれる特殊な領域において、それぞれ独立にモニターされていると考えられている。我々は、体液状態の脳内検知機構や体液状態の変動に対応した行動制御機構を探求している。

体液調節のための脳内センサー

体液(血液や脳脊髄液等の細胞外液)のNa+と水のバランスが崩れた時、例えば、長時間の脱水は体液中のNa+濃度と浸透圧を上昇させる。この時私たちは、のどの渇きを覚え、ただちに水分摂取を行うとともに塩分摂取を抑制する。感覚性脳室周囲器官ではNa+濃度や浸透圧のセンサーをはじめ、体液成分のモニタリングに関わる分子が特異的に発現し、体液恒常性制御の根幹を担っていると考えられているが、その実体は長らく不明のままだった。我々の研究グループは、脳弓下器官及び終板脈管器官のグリア細胞に特異的に発現するNaチャンネル分子、NaxがNa+濃度センサーであり、その情報が塩分摂取行動制御を担っていることを一連の研究を通して明らかにしてきた。さらに終板脈管器官のNaxが水分摂取行動制御を担うNa+濃度センサーであり、その情報はエポキシエイコサトリエン酸を介して下流のTRPV4へと伝えられることを明らかにした(図1)。また、この研究から水分摂取行動全体を説明するには、Naxだけではなく、未知のNa+濃度センサーや浸透圧センサーからのシグナルが必要であることが判明していた。
 
我々は脳弓下器官ではなく終板脈管器官を破壊したマウスにおいて、体液中のNa+濃度や浸透圧の上昇による水分摂取行動が消失することを報告しており、水分摂取行動を担うこれらのセンサーは終板脈管器官に特異的に発現していると考えられる。そこで終板脈管器官特異的に発現する分子を次世代シーケンサーを用いたトランスクリプトーム解析によって多数同定し、それらの中からNa+/H交換輸送体ファミリーのSLC9A4が水分摂取行動制御に関わるNa+濃度センサーであることを明らかにすることに成功した(図1)。また、そのシグナル経路はNax /TRPV4経路とは独立したものであり、SLC9A4陽性神経細胞が酸感受性イオンチャネル1a (ASIC1a) を介してpH依存的に活性化されることも明らかにした。
 
以上の研究によって、水分摂取行動制御に関わる脳内Na+濃度センサーは明らかとなったが、依然として浸透圧センサー分子の実体は不明のままである。現在、この未知の浸透圧センサーの分子実体を明らかにし、水分摂取行動制御のための脳内機構の解明を目指し研究を進めている。

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図1. 水分摂取行動惹起のシグナル機構
AA, アラキドン酸 ; EETs, エポキシエイコサトリエン酸。

研究室関連資料

参考文献

Sakuta, H., Lin, C.H., Hiyama, T.Y., Matsuda, T., Yamaguchi, K., Shigenobu, S., Kobayashi. K., and Noda, M. (2020). SLC9A4 in the organum vasculosum of the lamina terminalis is a [Na+] sensor for the control of water intake. Pflugers Arch.-Eur. J. Physiol. 472, 609-624.
 
Sakuta, H., Lin, C.H., Yamada, M., Kita, Y., Tokuoka, S.M., Shimizu, T., and Noda, M. (2020). Nax-positive glial cells in the organum vasculosum laminae terminalis produce epoxyeicosatrienoic acids to induce water intake in response to increases in [Na+] in body fluids. Neurosci. Res. 154, 45-51.
 
Nomura, K., Hiyama, T.Y., Sakuta, H., Matsuda, T., Lin, C.-H., Kobayashi, K., Kobayashi, K., Kuwaki, T., Takahashi, K., Matsui, S., and Noda, M. (2019). [Na+] increases in body fluids sensed by central Nax induce sympathetically mediated blood pressure elevations via H+-dependent activation of ASIC1a. Neuron 101, 60-75.
 
Sakuta, H., Nishihara, E., Hiyama, T.Y., Lin, C.-H., and Noda, M. (2016). Nax signaling evoked by an increase in [Na+] in CSF induces water intake via EET-mediated TRPV4 activation. Am. J. Physiol. Regul. Integr. Comp. Physiol. 311, R299-R306.
 
Noda, M., and Sakuta,H. (2013). Central regulation of body-fluid homeostasis. Trends Neurosci. 36, 661-673.