生命における秩序の創発

自然界は様々な時空間構造に満ちており、これらはすべて自己組織的な秩序創発により生み出されている。このことはとりわけ生物において顕著であり、生命は自己組織的な時空間パターンの宝庫である。この秩序創発は生命の誕生まで遡ることができ、生命はその誕生および複雑化の過程において、様々な秩序創発現象を順次取り込み進化してきたと言えるだろう。本研究グループでは、このような生命における秩序創発現象を、主に植物を研究対象として、数理的手法を用いることにより理解することを目指している。
生命における自己組織的パターン形成
生物は時として驚くほど美しく秩序だった空間構造を作り出すことがある。その代表的な例として植物の葉序が挙げられる。葉序は茎の周りの葉の配置様式のことで、美しい幾何学的模様を生み出す(上図左)。この規則的パターンは、植物ホルモンAuxinとその膜輸送体PIN1がお互いに制御し合うことにより自己組織的に形成される(文献1、4)。
一方で、植物の葉に形成される維管束のことを葉脈と呼び、植物種に応じて多様なパターンをとることが広く知られている(上図中)。この葉脈パターンに関してもAuxinとPIN1の相互制御が本質的に関わっているが、興味深いことに葉序の場合とは全く異なる相互制御により形成されることが知られている(図1、文献3、4)。

図1.葉脈パターンの形成・制御
AuxinとPIN1の相互制御に基づいた数理モデルにより、多様な葉脈パターンが再現できる(文献3)。
また、植物の地上部組織は、茎の先端にある分裂組織(SAM)により生み出される(上図右)。SAMの制御においては、転写制御因子WUSと拡散性ペプチドCLV3との相互制御が重要であることが知られている(図2、文献2、3)。

図2.茎頂分裂組織(SAM)パターンの形成・制御
WUSとCLV3の相互制御に基づいた数理モデルにより、多様な茎頂分裂組織(SAM) の基本的パターンが再現できる(文献2)。
また単細胞生物の大腸菌において、周期的なスポット状コロニーパターンが、走化性により自己組織的に形成されることが知られている(図3)。

図3.大腸菌細胞集団による自己組織的コロニーパターン
本研究室では、このような生命に見られる自己組織的な秩序の形成・制御機構を、数理的手法を用いることにより理解することを目指している。