English

大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

基礎生物学研究所

研究部門・施設

幹細胞生物学研究室

スタッフ

Webサイト

研究の概要

多能性幹細胞を維持するしくみ
 

2020_tsubouchi_main_visual.jpg

マウスES細胞(右)とヒトB細胞(左;青く染色されている)の融合細胞(赤はF-Actin;細胞の境界を示す)。ES細胞と融合したB細胞には数日以内に多能性が誘導される。我々の研究室では、融合細胞を使って多能性獲得過程を解析している。

個体発生の初期には、体を構成する全ての細胞種に分化する能力(多能性)を持つ細胞群が一過的にのみ出現する。この時期から樹立された胚性幹(ES)細胞は、染色体構造や細胞周期制御をはじめとする多くの点で特徴的で、これらが分化多能性という特有の性質の維持に密接に関わっていると考えられている。幹細胞生物学研究室では、このようなES細胞に特徴的な性質ひとつひとつが多能性幹細胞の維持に与える影響、またその連携を理解することで、多能性を司るメカニズムの分子基盤を明らかにすることを目指している。

多能性幹細胞の自己複製

多能性幹細胞は、DNA複製期と分裂期を休みなく繰り返し自己複製する特徴がある。このような盛んな細胞増殖を可能にするためにはどのような制御が働いているのか、また、多能性の維持に直接的にどのように関わっているのか、その全貌は明らかではない。また、一般的に盛んな細胞増殖はゲノム情報の維持に負荷となるが、多能性幹細胞では他の細胞種とは異なる戦術でゲノム恒常性を維持していることが明らかになりつつある。私たちの研究室では、マウスES細胞をモデルに、多能性幹細胞特異的な自己複製機構とその生物学的意義を明らかにすることを目指している。
 

2020_tsubouchi_fig1.jpg

図1.ES細胞と線維芽細胞のDNA複製フォーク速度
細胞にヌクレオチド(dNTP)のアナログを一定時間投与することで合成中のDNAに取り込ませ、取り込まれたアナログを可視化することでDNA複製フォークの進行速度を測定することができる。ES細胞では線維芽細胞と比較してDNA複製フォーク速度が遅いことが知られている。

ES 細胞とDNA 複製

自己複製にはDNA複製が必須であるが、DNA複製の進行は様々な要因で阻害されるため、ゲノム情報が損なわれやすい。近年の解析から、ES細胞のDNA複製装置が他の細胞種と比較して低速で進行することが明らかになっている(図1)が、その分子的背景及び生物学的意義は不明である。そこで私たちは、ES細胞においてDNA複製装置が遅延する要因を特定し、これを操作することでES細胞特有のDNA複製制御の意義を理解しようとしている。

多能性誘導過程におけるDNA 複製

ES細胞に線維芽細胞やリンパ細胞などの分化した細胞を融合させると、非ES細胞の核内に多能性が誘導されることが知られている。私たちは、この系を使って、ヒトBリンパ細胞に多能性が誘導される過程を調べてきた。この中で、多能性誘導の鍵を握る核内制御が、DNA複製と密接な関係を持つことがわかった。多能性誘導の結果得られるiPS細胞では、DNA複製過程に生じたと思われるゲノム上の傷が見つかっている。これらのことは、多能性誘導過程がDNA損傷と生存のバランスの上に成り立っていることを示している。私たちは、細胞融合の系を使って多能性誘導過程におけるDNA複製の安定性とゲノム恒常性を調べていることで、多能性細胞特異的な自己複製機構を紐解こうとしている。また、将来的には効率の良い多能性誘導とより安全な再生医療への応用に貢献できると考えている。
 

2021_tsubouchi_fig2.jpg
図2.細胞融合を使ったリンパ細胞への多能性導入
細胞融合後数日間はそれぞれの細胞由来の核が単一の細胞内で独立に存在するヘテロカリオンの状態が続き、その後細胞分裂時に二つの核の情報が混ざり合いハイブリッド細胞となる。融合細胞内ではリンパ細胞核におけるリンパ細胞特異的遺伝子の抑制、ES細胞特異的遺伝子の発現開始が1細胞周期内に起こると考えられている。

大学院生の募集

当研究室では常時大学院生を募集しています。細胞の根幹をなすゲノムの維持機構を一緒に解明していきませんか?まずは見学されたい方も歓迎します。

研究室関連資料

参考文献

Argunhan, B., Leung, W.K., Afshar, N., Terentyev, Y., Vijayalakshmi V. Subramanian, Murayama, Y., Hochwagen, A., Iwasaki, H., Tsubouchi T. and Tsubouchi, H. (2017). Fundamental Cell Cycle Kinases Collaborate to Ensure Timely Destruction of the Synaptonemal Complex. EMBO 36, 2488-2509.
 
Leung, W.K., Humphryes N., Afshar, N., Argunhan, B., Terentyev, Y., Tsubouchi, T. and Tsubouchi, H. (2015). The Synaptonemal Complex is Assembled by a PolySUMOylation-Driven Feedback Mechanism in Yeast. J. Cell Biol. 211, 785-793.
 
Tsubouchi, T. and Fisher, A.G. (2013). Reprogramming and the Pluripotent Stem Cell Cycle. Curr. Top. Dev. Biol. 104, 223-241.
 
Tsubouchi, T., Soza-Ried, J., Brown, K., Piccolo, F.M., Cantone, I., Landeira, D., Bagci, H., Hochegger, H., Merkenschlager, M. and Fisher A.G. (2013). DNA Synthesis Is Required for Reprogramming Mediated by Stem Cell Fusion. Cell 152, 873-883.
 
Pereira, C.F., Piccolo, F.M., Tsubouchi, T., Sauer, S., Ryan, N.K., Bruno, L., Landeira, D., Santos, J., Banito, A., Gil, J., Koseki, H., Merkenschlager, M. and Fisher, A.G. (2010). ESCs Require PRC2 to Direct the Successful Reprogramming of Differentiated Cells toward Pluripotency. Cell Stem Cell 6, 547-556.
 
Tsubouchi, T., MacQueen, A.J. and Roeder, G.S. (2008). Initiation of Meiotic Chromosome Synapsis at Centromeres in Budding Yeast. Genes Dev. 22, 3217-3226.
 
Tsubouchi, T., Zhao, H. and Roeder, G.S. (2006). The Meiosis-Specific Zip4 Protein Regulates Crossover Distribution by Promoting Synaptonemal Complex Formation together with Zip2. Dev. Cell 10, 809-819.
 
Tsubouchi, T. and Roeder, G.S. (2005). A Synaptonemal Complex Protein Promotes Homology-Independent Centromere Coupling. Science 308, 870-873.

連絡先

坪内 知美 准教授 E-mail: ttsubo@nibb.ac.jp  TEL: 0564-55-7693

映像

写真

幹細胞生物学研究室_写真1