基礎生物学研究所
繊毛が創る体の左右
7.5日マウス胚を腹側から見た走査顕微鏡写真。
中央にあるくぼみがノードで、その中の各細胞はそれぞれ1本の繊毛を有する。
我々の体のどちらが右でどちらが左か決めるのは、発生の一時期、胚表面に生える繊毛が作り出す水流である。時空間制御研究室では主にマウス胚を使いこのユニークな現象を調べている。
我々の体は、心臓が左、肝臓が右というように高度に左右非対称なつくりをしている。発生においてこの左右を最初に決めるのは、胚表面に一時的に現れる、ノードと呼ばれる部位である。ここには繊毛と呼ばれる長さ数マイクロメートルの小さな毛が生えているが、この繊毛は回転運動を行い、周囲に胚体の左に向かう水流を作る。この水流の向きが左右非対称な遺伝子発現のトリガーであることがわかっている一方、水流が運ぶ情報の正体が何かという問題は、いまだ決着を見ていない。これは発生学における基本的な問題であるばかりでなく、細胞外の水流が組織の極性を決定するという、風変わりながら近年いくつか発見され注目を集めているシステムである。私達は全胚培養、水流の人工的改変、超解像顕微鏡技術などの手法を用いてこの謎の解明に挑んでいる。現在は特に、繊毛の基部にある中心子と呼ばれる構造の極性がこの時期に左右非対称になる現象に注目している。
図1. 人工的に胚の左右を逆転させる実験
チャンバー内の「たこつぼ」に胚を固定し、一定方向の水流に曝す。ノード内の水流が右向きになるような条件下では、左側特異的な遺伝子nodalが右側に発現し、心臓などの形態も左右逆転する。
図2. 繊毛と母子中心子
ノード繊毛の基部にはふたつの中心子があり、母中心子は文字通り繊毛の根っこに、娘中心子はその横に付随している。
光シート顕微鏡とはもともと欧州分子生物学研究所(EMBL)で開発された、試料の横から薄いシート状に整形した励起光を照射する蛍光顕微鏡の方法論であり、高速かつ生体に優しいといった特徴がある。私達は光シート顕微鏡を日本に初めて導入し、現在は市販品および自作の高速な光シート顕微鏡を、共同利用研究、先端バイオイメージング支援プラットフォーム(ABiS)の枠組みで全国の研究者の利用に供している。
図3. 高速光シート顕微鏡にて撮影し3次元再構築したアメーバ運動の連続写真。
本研究室では光シート型顕微鏡DSLMや2光子顕微鏡を所有運用しており、これらの顕微鏡が持つ深部観察性・低褪色・低光毒性といった特徴を生かしたイメージングに関する共同研究を行っています。顕微鏡に関しては当研究室HPにある解説をご覧ください。共同利用研究に限らず、とりあえず試料を持ち込んで観察可能か試してみることも可能ですので、お気軽にご相談ください。
大学院生を募集しています。発生における左右性決定機構、あるいは生物学のためのイメージング技術に興味がある方はご連絡ください。工作好きな方は特に歓迎します。
野中 茂紀 准教授 E-mail: snonaka@nibb.ac.jp TEL: 0564-55-7590