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大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

基礎生物学研究所

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バイオリソース研究室

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研究の概要

メダカを用いた遺伝子型-表現型相関の解明


メダカは小川や水田に生息する日本在来の野生動物で、東南アジアにはメダカの近縁種が36種以上分布しています。また、日本オリジナルのモデル動物でもあり、近交系や突然変異体など、これまでに様々な性質を備えた系統が作出されてきました。本研究室では、これらの多様な生物遺伝資源(バイオリソース)を用いて、環境への応答、体色突然変異体の原因遺伝子同定と色素細胞分化機構の解明など幅広い生命現象の理解を目指しています。また、本研究室はメダカバイオリソースプロジェクト(NBRPメダカ)の中核機関として、メダカバイオリソースの整備を積極的に進め、様々なメダカ系統やゲノムリソースの収集・整備を行うとともに、それを国内外の研究者に広く提供しています。さらに野生由来系統の全ゲノム解析、環境変化にともなる生体組織の発現遺伝子解析とメチローム解析などゲノム情報等整備も実施しています。

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バイオリソース研究室で維持しているメダカ系統と近縁種

動物が季節情報を読み取る仕組み

日の長さ(日長)や日射量、気温、降水量といった自然環境は、季節変化を伴った1年のリズムを刻んでいる。動物は、繁殖、換毛、渡り、冬眠など、季節に応じて生理機能や行動を変化させるが、季節を感知する仕組みはまだ不明な点が多い。野生のメダカは、季節変化を敏感に感じ取り、日が長くなり暖かくなる春から夏にかけて繁殖し、夏の後半に繁殖を停止する。青森県から沖縄県まで日本各地のメダカを使ったこれまでの研究から、メダカの日長と温度への応答性は地域集団間で異なること、また高緯度集団は低緯度集団よりも敏感に季節変化に応答していることが明らかとなり、メダカの季節応答が生息環境の季節変化に適応して進化したことが示唆された。量的形質遺伝子座(QTL)解析から日長、温度への応答に関わる染色体領域を同定しており、メダカの地域集団を使った研究から、動物の季節変化の感知に働く遺伝子が解明されることが期待される。

体色突然変異体の原因遺伝子同定と色素細胞分化機構の解明

メダカは黒、黄、白、虹の4種類の色素細胞を持っている。白色素胞は、メダカの近縁種間で存在するか否かが異なるため、新しい形質の発現メカニズムを研究するのに適したモデルである。メダカの体色変異体の原因遺伝子を研究した結果、白色素胞は黄色素胞と同じ幹細胞から分化し、sox5遺伝子がその運命を決定する上で重要であることが明らかとなった。また、虹色素胞の変異体であるguaninlessはpnp4a遺伝子の変異が原因であり、黒色素胞と白色素胞の数が著しく減少する突然変異体few melanophoreはkit-ligand aの機能喪失型変異が原因であることが判明した(図1参照)。これらの発見からkitシグナルは黄色素胞と白色素胞の共通前駆細胞から白色素胞前駆細胞へと分化した後に、黒色素胞前駆細胞と白色素胞前駆細胞への共通の増殖シグナルとして機能していると考えられた。
 

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図1. メダカ色素細胞分化のモデル

メダカバイオリソースプロジェクトの推進

基礎生物学研究所はメダカバイオリソースプロジェクトの中核機関であり、我々はこのプロジェクトを推進する中心研究室の役割を担っている。突然変異体、遺伝子導入系統、近縁種等600を越える系統についてライブ及び凍結精子として保存し、リクエストに応じて提供をおこなっている(図2参照)。131万を越えるBAC/Fosmid/cDNA/ESTクローンも保存・提供をおこなっている。CRISPR-Cas9によるゲノム編集システムを共同利用研究者に提供し、逆遺伝学的手法による解析の普及を推進している。さらに清須産野生メダカを用いた脊椎動物初のnear isogenic 系統(MIKK)を国際共同研究として樹立し、温度及び化学物質が心拍数に与える影響を指標としてMIKKを用いて表現型多型のスクリーニングを行った。その結果、心拍数に影響を与える10をこえるQTL遺伝子座を同定した。2022年度にはNBRPゲノム情報等整備「メダカ野生由来系統のゲノム多型情報整備」が採択され、野生由来系統100系統を含む130系統の全ゲノム塩基配列を決定し、系統樹を作成した。その結果、ゲノム塩基配列系統樹とミトコンドリア塩基配列系統樹はほぼ一致していた。この情報により野生由来系統を用いたGWAS解析を行うことが可能となった。またアミノ酸置換やストップ変位など、タンパク質機能に影響を与えうる塩基置換を検索できるサイトを公開した(https://medakabase.nbrp.jp/viewer/Hd-rR/)。2023年度にはNBRPゲノム情報等整備「表現型可塑性を探るメダカゲノム基盤の整備」が採択され、d-rR/Tokyo系統を用いて夏季と冬季、海水と淡水に適応した個体の組織のRNA-seqとEM-seqによるメチローム解析を雌雄別に行っている。このプロジェクトにより環境変化に伴う遺伝子発現とメチル化との関係を網羅的に検索できるデータベースの構築を行う。
 

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図2. メダカバイオリソースプロジェクトで提供しているメダカ系統
近交系Hd-rRII1(上段)、actin-DsRed遺伝子導入系統(中段)、透明メダカQuintet(下段)。

共同研究利用の募集

バイオリソース研究室では、魚類をもちいた遺伝学的研究、フォスミドゲノムライブラリーの作製、CRISPR/Cas9によるメダカ変異体の作製、メダカトランスジェニック系統の作製に関する共同研究を募集しています。その他の共同研究でも対応できる場合もあります。魚類を用いた研究にご興味がある方はぜひ一度ご連絡ください。
共同利用研究例:メダカ突然変異体のマッピング、アマガエルフォスミドライブラリーの作成など

研究室関連資料

参考文献

Miyadai, M., Takada, H., Shiraishi, A., et al. (2023). A gene regulatory network combining Pax3/7, Sox10 and Mitf generates diverse pigment cell types in medaka and zebrafish. Development, 150, dev202114.

Shinomiya, A., Adachi, D., Shimmura, T., et al. (2023). Variation in responses to photoperiods and temperatures in Japanese medaka from different latitudes. Zoological Lett. 9, 16.
 
Fitzgerald, T., Brettell, I., Leger, A., et al. (2022). The Medaka Inbred Kiyosu-Karlsruhe (MIKK) panel. Genome Biol. 23, 59.
 
Leger, A., Brettell, I., Monahan, J., et al. (2022). Genomic variations and epigenomic landscape of the Medaka Inbred Kiyosu-Karlsruhe (MIKK) panel. Genome Biol. 23, 58.
 
Otsuki, Y., Okuda, Y., Naruse, K., et al. (2020). Identification of kit-ligand a as the gene responsible for the medaka pigment cell mutant few melanophore. G3 10, 311-319.
 
Kimura, T., Takehana, Y., and Naruse, K. (2017). Pnp4a is the causal gene of the medaka iridophore mutant guanineless. G3 7, 1357-1363.

連絡先

成瀬 清 特任教授 E-mail: naruse@nibb.ac.jp

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