多様性生物学研究室
研究の概要
生命現象理解の為の画像解析
生命現象は顕微観察など、画像情報として取得される事が多い。これら画像をもとに、現象を記述しうる特徴量を抽出し定量的な議論を行うための画像処理・解析技法の開発と運用を行っている。これら手法をもとに、器官形成をはじめとする多細胞動態を個々の細胞運動の総和として解釈可能とすることを目指している。
発生過程における細胞集団の運動
生物の器官は、胚発生期において平面状の細胞群が巧みに折れ込む過程を経る事により、立体的かつ複雑な構造として構築される。このような劇的な細胞集団の形態変化は、器官原基細胞群のそれぞれの領域に特異的な運動が、適切な時点で誘起される一連の制御過程を経た結果によるものであると考えられる。
これら細胞運動を記録した時系列顕微観察画像から、個別の細胞の動態を抽出し解析する事で、器官形成の過程を担う個々の細胞の挙動へと還元し、理解する事を目的としている。
多次元画像解析手法の開発
近年の蛍光イメージング技術の発展に伴い、空間並びに時間軸を持つ 4D 画像を取得する事で、種々の生物現象の時間発展を捉える事が可能となった。このような観察系の多次元化、高精細化に伴い、そのデータは容量及び複雑性を増している。これら大容量の画像データを効率的に取り扱い、かつ定量的な解析を適用可能とするソフトウェアを開発し、適用している。
細胞集団運動における個々の細胞動態を数量化し解析するため、上皮細胞群のアピカル境界を蛍光ラベルした組織の 4D 顕微観察画像から、各々の細胞輪郭とその配置を抽出し、記録するアルゴリズムの開発と実装を行っている(上図)。また、これら特徴の系時変化を解析することで、平面上皮が機能的な立体的器官へと変容する原動力についての理解を試みている。さらに、個別の細胞の判別が困難な環境下における細胞配置ならびに動態を解析するため、蛍光標識した核について同定、計測する系を開発している。
また、時系列において不定形かつ出没や交差、分裂、融合等を繰り広げることの多い生物現象から生物学的に意味のある特徴を抽出するためには、観察者の目視による特徴の抽出が必要となる。このため、特徴抽出作業の効率化を果たす為の GUI アプリケーションの開発を行っている(図1)。
図 1. 4D 顕微観察画像スタックの表示・定量ソフトウェア「mq」
目視により形態的な特徴ならびに輝度情報の時系列データを容易に抽出する事ができる。
この技法を適用することで、遺伝子型の異なる標本間における微小な表現系の差異を記述、形態形成に与える影響について評価を行うことを可能とした(図2)。
図 2. アプリケーション「mq」の適用例
抽出した形態特徴量を定量的に解析、注目する変異型における微小な表現系の差を求めた。
研究室関連資料
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Annual Report 2018(PDF)
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要覧 2019年 (PDF)
参考文献
Fujita, I., Shitamukai, A., Kusumoto, F., Mase, S., Suetsugu, T., Omori, A., Kato, K., Abe, T., Shioi, G., Konno, D., and Matsuzaki, F. (2020). Endfoot regeneration restricts radial glial state and prevents translocation into the outer subventricular zone in early mammalian brain development. Nat. Cell Biol. 22, 26-37.
Nishimura R, Kato K, Fujiwara S, Ohashi K, Mizuno K. (2018). Solo and Keratin Filaments Regulate Epithelial Tubule Morphology. Cell Struct. Funct. 43, 95-105.
Kato, K. et al. (2016). Microtubule-dependent balanced cell contraction and luminal-matrix modification accelerate epithelial tube fusion. Nat. Commun. 7, 11141.
Kato, K., and Hayashi, S. (2008). Practical guide of live imaging for developmental biologists. Dev. Growth Differ. 50, 381-390.
写真
多様性生物学研究室 加藤グループ 集合写真