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大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

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研究の概要

Evo-Devoで探る昆虫の多様性
 

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100万種以上にも及ぶ圧倒的な種数の豊富さを誇る昆虫は、4億年以上にわたる進化の歴史の中で、地球上のあらゆる環境に進出し、それぞれの種の棲息環境に適応した多様な形質を発達させてきた。そのような昆虫は、多様性の宝庫であり、多様性創出の進化メカニズムを解き明かすための研究材料として無限の可能性を秘めている。進化発生研究部門では、昆虫が進化の過程で獲得した翅や角などの新奇形質に着目し、昆虫の多様な形質をもたらす分子基盤および進化メカニズムを解明することを目指している。

昆虫翅の起源と多様化

翅の獲得及び多様化が、地球上で最大の種数を誇る昆虫の繁栄をもたらしたと考えられる。翅の起源に関する仮説は2世紀も前から様々なものが提唱されてきたが、その起源に関する統一見解は未だ得られていない。我々は、有翅昆虫における翅形成のマスター遺伝子vestigialに着目することで、翅の起源構造や翅連続相同構造がもたらされる進化メカニズムを探る。
 
昆虫は、様々な環境に適応するため機能分化した翅を発達させてきた。中でも甲虫は、飛翔から体の保護へと大幅にその機能を転換した前翅(鞘翅)を有することで、圧倒的な種数をもたらしたと考えられている。甲虫の鞘翅をもたらした遺伝子ネットワークの実体解明を目指す。
 
コオロギやキリギリスなど鳴く虫の翅にある発音器官は左右の翅で非対称に形成される。1対で存在し左右で独立に形成される翅に着目し、左右非対称性の分子基盤の解明に挑戦する。

テントウムシの斑紋と擬態

ナミテントウの種内の斑紋多型は、単一遺伝子座の複対立遺伝子による支配を受けることが知られている。我々はRNAi法や形質転換ナミテントウを用いた遺伝子機能解析を通して斑紋形成メカニズムの解明を目指している。
 
テントウムシの赤色と黒色からなる目立つ斑紋は、捕食者に対する警告色として機能する。一方でテントウムシへの擬態により捕食を回避する昆虫は様々な分類群に存在する。系統的に遠縁な種において、類似した擬態斑紋が形成されるメカニズムは依然として謎のままである。各種テントウムシやテントウムシに擬態するヘリグロテントウノミハムシを材料に、擬態斑紋の進化の謎に挑む。

多様な角の進化

角は、全く異なる独立した系統で何度も獲得され、それぞれの系統内には多様な形態が存在する。カブトムシをモデルに比較トランスクリプトーム解析及びRNAi法による遺伝子機能解析を通して、角形成を司る遺伝子制御ネットワークを解明する。カブトムシから得られた知見を、多様な角を持つ近縁種間で比較し、角の多様化をもたらすゲノム上の変化を探る。さらに、角を独立に獲得した種を用いて同様の比較解析を行い、角の独立進化メカニズムの解明に迫りたい。

昆虫特異的な性決定メカニズムの進化

昆虫の性決定機構は、性特異的なスプライシング調節が中心的な役割を果たす昆虫特有の様式を示す。この性特異的なスプライシング制御が獲得された際、どのような分子レベルでのイノベーションが生じたのであろうか。未だ性決定機構が明らかでない無変態昆虫及び不完全変態昆虫の遺伝子機能解析を通して、昆虫特有の性決定機構の進化的起源の解明を目指す。

遺伝子機能解析ツールの開発

非モデル昆虫の興味深い現象を分子レベルで解明するためには、遺伝子機能解析ツールが必要不可欠となる。そこで、非モデル昆虫での遺伝子機能解析を実現するために独自に開発した形質転換体を利用した遺伝子機能解析系及び種々のRNAi法、ゲノム編集技術などの開発を行っている。
 

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図 1. 形質転換ナミテントウ(上段)と形質転換カイコ(下段)

大学院生の募集

当研究部門では常時大学院生を募集しています。これまでの研究内容は問いません。新しいことにチャレンジする熱意のある大学院生を歓迎します。当研究部門に興味のある方はお気軽にご連絡下さい。見学や体験入学も歓迎します。

<研究キーワード>昆虫、多様性、発生、進化、新奇形質、角、翅、斑紋、擬態、性決定、性分化、トランスジェネシス、RNAi、ゲノム編集

研究室関連資料

参考文献

Morita, S., Shibata, T.F., Nishiyama, T., Kobayashi, Y., Yamaguchi, K., Toga, K., Ohde, T., Gotoh, H., Kojima, T., Weber, J.N., Salvemini, M., Bino, T., Mase, M., Nakata, M., Mori, T., Mori, S., Cornette, R., Sakura, K., Lavine, L.C., Emlen, D.J., *Niimi, T. and *Shigenobu, S. (2023). The draft genome sequence of the Japanese rhinoceros beetle Trypoxylus dichotomus septentrionalis towards an understanding of horn formation. Sci. Rep. 13, 8735.

Chikami, Y., Okuno, M., Toyoda, A., Itoh, T. and Niimi, T. (2022). Evolutionary history of sexual differentiation mechanism in insects. Mol. Biol. Evol. 39, msac145.
 
Sakai, H., Oshima, H., Yuri, K., Gotoh, H., Daimon, T., Yaginuma, T., Sahara, K. and Niimi, T. (2019). Dimorphic sperm formation by Sex-lethal. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 116, 10412-10417.

Morita, S., Ando, T., Maeno, A., Mizutani, T., Mase, M., Shigenobu, S. and Niimi, T. (2019). Precise staging of beetle horn formation in Trypoxylus dichotomus reveals the pleiotropic roles of doublesex depending on the spatiotemporal developmental contexts. PLOS Genet. 15, e1008063.

Ohde, T., Morita, S., Shigenobu, S., Morita, J., Mizutani, T., Gotoh, H., Zinna, R.A., Nakata, M., Ito, Y., Wada, K., Kitano, Y., Yuzaki, K., Toga, K., Mase, M., Kadota, K., Rushe, J., Lavine, L.C., Emlen, D.J. and Niimi, T. (2018). Rhinoceros beetle horn development reveals deep parallels with dung beetles. PLOS Genet. 14, e1007651.

Ando, T., Matsuda, T., Goto, K., Hara, K., Ito, A., Hirata, J., Yatomi, J., Kajitani, R., Okuno, M., Yamaguchi, K., Kobayashi, M., Takano, T., Minakuchi, Y., Seki, M., Suzuki, Y., Yano, K., Itoh, T., Shigenobu, S., Toyoda, A. and Niimi, T. (2018). Repeated inversions within a pannier intron drive diversification of intraspecific colour patterns of ladybird beetles. Nat. Commun. 9, 3843.

連絡先

新美 輝幸 教授 E-mail: niimi@nibb.ac.jp  TEL: 0564-55-7606

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