2023.03.22 新規モデル生物開発室セミナー(共催:超階層生物学センター)
DIPA-CRISPR法による昆虫のゲノム編集法
大門高明 教授(京都大学大学院農学研究科)
2023年03月22日(水) 16:00 より 17:30 まで
明大寺地区1階 第1セミナー室 (132-134) および ZOOM
新美輝幸(7606)
昆虫のゲノム編集は、初期胚へのマイクロインジェクションができれば、原理上すべての昆虫で可能である。しかし、初期胚に注射するためには高価な装置や熟練したインジェクション技術が必要である。さらに、種によっては、卵鞘を形成する、卵胎生である、卵殻が硬い、採卵/ハンドリングが困難、などの特徴のために、初期胚へのアクセスが極めて困難な場合がある。
近年、初期胚へのインジェクションに換わる手段として、メス成虫へのインジェクションによってゲノム編集を行う方法が開発された(Chaverra-Rodriguez et al, 2018. Nat Commun)。この方法はReMOT法と呼ばれ、卵移行タグをCas9タンパク質に融合することで、体液中から卵母細胞内へのCas9 RNPの取り込みを促進させる。蚊をモデルに開発されたこの方法は、この数年で他のいくつかの昆虫種でも使えることが報告されている。しかし、この方法には、(1)昆虫種ごとに卵移行タグを最適化する必要がある、(2)変異導入効率が従来法に比べて極めて低い、などの問題点があることも明らかになってきた。
より汎用性の高いツール開発を目指す中で、私たちは、市販品のCas9タンパク質が卵母細胞内に効率よく取り込まれることを発見した(DIPA-CRISPR, Direct Parental CRISPR法)。DIPA-CRISPR法によって、これまで遺伝子改変ができなかったゴキブリにおいて、初めてゲノム編集に成功した。また、系統的に離れた甲虫においても、従来法に匹敵するレベルの高い効率を達成することができた。さらに、ssODNをCas9/sgRNAと共にインジェクションすることで、ノックインアリルを保持した個体の獲得にも成功した。これらの結果は、DIPA-CRISPR法の汎用性と有効性を強く示唆する。
本セミナーでは、DIPA-CRISPR法の開発の経緯、ゲノム編集を成功させるための鍵となるパラメータ、さらなる高度化に向けた私たちの取り組みについて紹介する。本法は、昆虫にとどまらず、節足動物全般(甲殻類、鋏角類、多足類)に適用できる可能性が高い。本法がこれらの生物における研究を基礎・応用の両面から強力に牽引していくことを期待している。
【参考文献】
1.Shirai Y et al. (2022) DIPA-CRISPR is a simple and accessible method for insect gene editing. Cell Rep. Methods 2, 100215.