2009.07.02 臨時セミナー
川口教授・椎名准教授の研究紹介
2009年07月02日(木) 15:00 より 17:00 まで
明大寺地区1階会議室(111)
情報・戦略室 児玉 隆治 内線7578
◆15:00~ 「相互作用が導く共生器官の生成と安定化」共生システム研究部門 教授 川口正代司 【詳細】 マメ科植物の根に根粒菌が感染すると共生窒素固定器官・根粒が形成される。根粒形成の正の制御因子は根粒菌が分泌するNodファクター(リポキチンオリゴサッカライド)であり、宿主はこれを受容すると根でカルシウムの振動を発生するとともに、菌の取り込みと器官分化を開始する。一方でNodファクターは、遠距離シグナル伝達を介した負の制御系を駆動することが知られており、これにより根粒の過剰形成と窒素固定が抑制され、共生バランスが保たれる。 近年私たちは、日本に自生するマメ科の草本ミヤコグサLotus japonicusを用いて、この遠距離シグナル伝達に関わる3つの因子を特定した。そのうちのHAR1はロイシンリッチリピートをもつ受容体型キナーゼをコードしており、根からのシグナルを全身で受容するとともに、リン酸化を介して植物の地上部から根に負の制御シグナルを輸送していると考えられる。興味あることに、HAR1はシロイヌナズナの全遺伝子の中で、細胞間コミュニケーションを介して茎頂分裂組織の形成を負に制御するCLAVATA1と最も高い相同性を有していた。 本セミナーでは、根粒形成の正の制御因子であるNodファクターと負の制御系であるHAR1を介した遠距離シグナル伝達を紹介し、両者の相互作用により共生器官の生成と安定化がもたらされる可能性について紹介する。また、ミヤコグサのモデル化にむけた取り組みや、最近よく考える人間を含む共生の構造についても紹介する。 ◆16:00~ 「神経局所的翻訳とシナプス・ネットワーク形成に関わるRNA粒子タンパク質RNG105」神経細胞生物学研究室 准教授 椎名伸之 【詳細】 神経樹状突起へのmRNA輸送とシナプス刺激依存的な局所的翻訳は、シナプス形成や可塑性に必須の基盤であることが近年明らかにされつつある。mRNA輸送および局所的翻訳制御は、RNA粒子 (RNA granule)とよばれる核酸タンパク質高次複合体によって主に担われている。我々はRNA granuleの構成要素として新規RNA結合タンパク質RNG105を同定し、その解析をおこなってきた。これまでの結果から、RNG105 はNa+/K+ ATPaseサブユニットアイソフォームmRNAを含む特定のmRNAの樹状突起への輸送を担っていることがわかった。RNG105ノックアウトマウスでは、それらmRNAの樹状突起への輸送が減少し、その結果、それらの翻訳産物の樹状突起局在が低下した。また、RNG105ノックアウトマウスでは、興奮性シナプス形成の低下および神経ネットワークの脆弱化が起きることがわかった。この2つの表現型は、Na+/K+ ATPaseの阻害やノックダウンによって再現することができた。以上の結果から、RNG105はNa+/K+ ATPaseサブユニットアイソフォーム等のmRNAの樹状突起への輸送を担っており、それらmRNAのコードするタンパク質が局所的に翻訳され機能することによって、シナプス形成やネットワーク形成が制御されると考えられた。