2008.02.26 ERATOセミナー
原形質連絡ネットワークに基づく維管束植物茎頂の形態進化の推定
2008年02月26日(火) 11:00 より 12:00 まで
基礎生物学研究所 第2会議室(151室)
維管束植物の茎の頂端分裂組織(茎頂)は、植物群によって多様な形態を示し、進化段階が進むにつれて複雑さを増したようにみえる。シダ植物大葉類の茎頂は始原細胞として働く1個の頂端細胞をもつが、裸子植物では始原細胞が複数になり、そして被子植物ではそれら始原細胞群が層状に並ぶ、いわゆる外衣・内体構造を示す。一方、維管束植物の最初の分岐群であるシダ植物小葉類の茎頂は、頂端細胞をもつものと、複数の始原細胞群をもつものが知られている。 このような多様な茎頂構造がどのように進化してきたか明らかにするため、上記植物群17科24種の茎頂の原形質連絡ネットワークの比較を行った。原形質連絡(Plasmodesmata)とは、隣接する細胞間の細胞壁に存在する管状構造で様々な物質の移動通路となる、植物独特の構造である。茎頂の正中縦断面のTEM観察から、構成細胞の細胞壁の単位面積当たりの原形質連絡数(PD密度)を計算した。 その結果、裸子植物と被子植物では、ともに茎頂全体が低いPD密度をもち、単層型と複層型という形態の違いはPD密度の違いには反映されていなかった。これに対してシダ植物大葉類(マツバラン、トクサを含む)の頂端細胞型茎頂のPD密度は全体に高く、種子植物の3倍以上の高い値を示した。特に頂端細胞とこれに隣接する数細胞のPD密度は非常に高かった。前、後者のタイプをそれぞれシダ型PDネットワーク、種子植物型PDネットワークと呼ぶ。小葉類の茎頂PD密度は興味深い結果となった。イワヒバ類にみられる頂端細胞型茎頂は、シダ植物大葉類と同様の高いPD密度を示し、シダ型PDネットワークをもっていた。これに対して、ミズニラ類、ヒカゲノカズラ類の複数始原細胞型茎頂は、種子植物と同様の低いPD密度を示し、種子植物型PDネットワークをもっていた。これまで小葉類の複数始原細胞型は、小葉類のみにみられる特殊なタイプと考えられることが多かったが、予想に反して種子植物型を示したことになる。 以上から、原形質連絡ネットワークは茎頂構造と強く相関していることが示された。すなわち始原細胞が1個(頂端細胞)か、複数(始原細胞群)かの違いが、シダ型と種子植物型PDネットワークの違いに対応している。両PDネットワークは小葉類と真正葉類(シダ大葉類と種子植物)で独立に進化した可能性が高く、両タイプの違いは、二次原形質連絡の形成能の有無が関係しているかもしれない。 <連絡先> ERATO長谷部分化全能性進化プロジェクト事務所 内線:7600 |