2004.04.23 基生研セミナー
兵隊アブラムシ:生態、生理、階級分化、社会性の調節から特異的発現遺伝子まで
深津 武馬 (産業技術総合研究所 生物機能工学研究部門 生物共生相互作用研究グループ グループリーダー)
2004年04月23日(金) 16:00 より 17:30 まで
明大寺地区1階会議室(111)
種分化第二研究部門 長谷部光泰 内線7546
社会性アブラムシ類においては、単為生殖クローンから成るコロニー内で、繁殖に専念する「普通個体」と自己犠牲的にコロニーを防衛する「兵隊」が分化する。このような形態、行動、生理、生殖能力などの差異は、両者の間における遺伝子発現パターンの違いに起因するものと考えられる。
生物現象としてはきわめて興味深いにも関わらず、材料としての取り扱いが難しいため、社会性アブラムシについての従来の研究は、記載、行動生態、進化生態、分子系統などの分野に限られていた。精密な行動の継続観察や、発生段階や令期のしっかりしたステージングからはじまり、兵隊アブラムシの分化機構や、生理や、内分泌、生化学から分子生物学にいたるまでの研究を展開するには、実験室で継続的に飼育維持ができる「兵隊アブラムシのモデル系」が必要である。
そこで我々は完全合成人工試料によるさまざまな社会性アブラムシの飼育を試み、2令の不妊兵隊を産生するハクウンボクハナフシアブラムシについて、人工飼料上で3世代2ヶ月以上にわたって飼育維持できる系を開発した。この人工試料飼育系を駆使することによって、兵隊及び生殖個体の各種生活史パラメータ、労働及び生殖分業の詳細、兵隊階級における齢差分業の発見、兵隊分化を促進する環境要因の同定、兵隊生産の調節機構、兵隊分化の決定時期、兵隊特異的発現遺伝子などの新知見がぞくぞくと得られている。本講演ではこのような兵隊アブラムシの生物学の最新の展開について紹介する。
Refs: Shibao et al. (2004) Proc. R. Soc. Lond. B 271, S71; Shibao et al. (2004) J. Insect Physiol. 50, 143;
Shibao et al. (2003) Naturwissenschaften 90, 501; Shibao et al. (2002) J. Insect Physiol. 48, 495