石野 史敏　博士 （東京医科歯科大学 難治疾患研究所）

2007年09月11日(火) 15:00

明大寺地区職員会館２階大会議室

所長室 岡田清孝 内線7650

生物にとって両親由来のゲノムから遺伝子が同等に発現すること、すなわち２倍体であることは、劣性変異による発症を防ぐ上で明らかな利点をもっています。しかし、哺乳類では、個体発生や成長に必須な機能を果たす幾つかの遺伝子が片親性発現をするように制御されています。なぜこのような一見不利に思われる片親性発現機構が哺乳類に採用され、広く保存されているのか？私たちはこのような問題に興味をもって研究をしています。
　ゲノムインプリンティングの生物学的意味に関する問題へのアプローチとして、これまでゲノムインプリンティングの制御体系や、個体発生に必須のインプリンティング遺伝子の機能についての解析等を進めてきました。その中で、Peg10 (paternally expressed 10)という、レトロトランスポゾン由来の遺伝子で、かつ哺乳類を特徴づける胎生という生殖様式の獲得に重要な役割を果たしたと考えられる遺伝子を同定しました。この興味ある遺伝子が哺乳類進化のどの段階で獲得されたのか、哺乳類の３つのグループ（真獣類、有袋類、単孔類）におけるゲノム解析とインプリンティング解析の最新の結果を紹介したいと思います。その結果、レトロトランスポゾンは“新しい遺伝子資源”としてだけでなく、哺乳類特異的なエピジェネティック制御機構としてのゲノムインプリンティング等の成立にも関係していた可能性が高いと考えるデータを得ています。これらのデータも取り入れて、ゲノムインプリンティングの哺乳類の個体発生機構および哺乳類の進化における生物学的意義に関して討論させていただきたい。

参考文献
１．Kaneko-Ishino, T., Kohda, T. and Ishino, F. The regulation and biological significance of genomic imprinting in mammals. J. Biochem. (Review) 133, 699-711 (2003).
２．Kaneko-Ishino, T., et al. Complementation hypothesis: the necessity of a monoallelic gene expression mechanism in mammalian development. Cytogenet. Genome Res. 113, 24-30 (2006).
３．Ono, R. et al. Deletion of Peg10, an imprinted gene acquired from a retrotransposon, causes early embryonic lethality. Nat. Genet. 38, 101-106 (2006).
４．Suzuki, S. et al. Retrotransposon silencing by DNA methylation can drive mammalian genomic imprinting. PLoS Genetics 3, e55 (2007).


<懇親会のお知らせ>

９月１１日（火）に行われる下記の石野史敏先生の所長招聘セミナーの後で懇親会を行います。
参加を希望される方は、９月６日までに所長室・坂神（内線７６５１、メールsakagami@nibb.ac.jp）までご連絡下さい。
場所は、後日お知らせ致します。