2004.12.16 所長招聘セミナー
ゼブラフィシュを用いた、心臓及び肝臓の器官形成機構の解析
坂口拓哉 (University of California, San Francisco)
2004年12月16日(木) 17:30 より 19:30 まで
山手地区3号館2階共通セミナー室
分子発生学研究部門 高田 慎治 内線5241 stakada@nibb.ac.jp
私は現在、小型モデル脊椎動物として注目を集めるゼブラフィシュを用いて、器官形成の分子機構の解明を行っている。本セミナーでは、私が行ったゼブラフィシュの心臓及び肝臓の器官形成機構に関する二つの研究を紹介する。
心臓器官形成:胚体外組織である卵黄多核層(YSL)による、心筋前駆細胞の移動の制御機構
すべての脊椎動物において、心臓は、左右2つの心筋前駆細胞群が中心に向かって移動し癒合する事で形成されていく。ゼブラフィシュにおいて、これらの心筋前駆細胞群は、内胚葉細胞層と卵黄多核層(YSL)の間を移動する事が知られている。
卵黄多核層に特異的に発現する遺伝子群の機能解析の過程で私は、卵黄多核層特異的に発現している転写因子であるmtx1が心臓前駆細胞の中心への移動に重要な役割を担う事を見いだした。mtx1遺伝子に対するアンチセンス・モルフォリノを卵黄多核層のみに導入すると、心筋前駆細胞の移動が阻害され、その結果二つの心臓が形成されるcardia bifidaと呼ばれる表現型が生じた。この結果から、胚体外組織である卵黄多核層が細胞非自律的に、胚体の心筋前駆細胞の移動を制御している事が明らかとなった。さらに興味深いことに、私は、卵黄多核層が、胚体領域におけるフィブロネクチン(fibronectin/natter)遺伝子の発現を、細胞非自律的に制御する事を通して、心筋前駆細胞の移動を制御している事も明らかにした。
肝臓器官形成:肝臓発生過程における、胆管と血管のクロストーキングによる相互の位置決定機構
肝臓は主に、肝細胞とその周囲を高度に秩序だって取り囲む血管及び胆管から構成されている。これらの肝臓内における秩序だった細胞の配置は、肝臓の生理的機能のために必須であるにもかかわらず、これらの形成過程には依然として不明な点が多い。しかも、肝細胞と胆管は内胚葉から発生するのに対し、血管は中胚葉由来の血管内皮細胞が肝臓内に進入する事で形成されるが、それらの発生過程における相互関係は解っていない。
本研究で私は、血管内皮細胞特異的にGFPを発現するトランスジェニック系統(flk1::GFP)と、胆管マーカー(anti-DM-GRASP)、肝細胞マーカー(anti-Prox1)を組み合わせて用い、正常発生における胆管と肝内血管が、肝臓内で協調的に形成されている事を明らかにした。さらに、血管内皮細胞を全く形成しない突然変異体(cloche)や、血管形成の阻害剤等を用いたより詳細な解析から、発生過程の肝臓内において、胆管と血管がお互いにクロストーキングをしており、そのことが、肝臓内における相互の位置を決定するために重要である事も明らかにした。