2021.03.16 臨時所内セミナー
細胞変形動態の数理モデリング
多様性生物学研究室/ExCELLS 理論生物学研究グループ 特任准教授 斉藤 稔
2021年03月16日(火) 16:00 より 17:00 まで
Zoomオンライン
研究力強化戦略室 企画・評価グループ 児玉 隆治(7578)
遊走する細胞は様々な複雑な形状を取り時に動的に変形しながら、免疫監視機構やガン浸潤、創傷治癒、組織形成などの重要な生体機能を担う。細胞性粘菌が示すアメーバ運動では、細胞前端部のダイナミックな仮足の形成・消滅により運動が駆動されている。一方、魚の上皮細胞であるケラトサイトでは、葉状仮足と呼ばれるアクチン繊維のネットワーク状構造が細胞前端部分で現れ、全体の形状を保ったまま遊走運動を行う。これらの異なる運動形態を統一的に理解できるだろうか。また、個々の細胞の変形可能性が組織全体の振る舞いにどのような影響を与えるのだろうか。本研究では、一細胞の変形動態と多細胞集団運動のモデリングを通し、これらの問いに迫る。
一細胞動態のモデリングでは、フェイズフィールド法を用いて、多様な二次元的変形を記述できる数理モデルを開発した[1]。深層学習から抽出した細胞形状を定量する特徴量を用い、実験とシミュレーション間のシステマティックな比較を行ったところ、開発したモデルは様々な遊走性細胞の運動動態を表現できることがわかった。モデリングを通して細胞種や変異による細胞形状の違いがどの物理化学的なパラメータの違いによるものか推定することが可能となる。また3Dモデルについても軽く紹介する[2]。
多細胞のモデリングでは千~万個オーダーの変形する細胞をシミュレーション可能な多細胞数理モデルの開発を行った。このモデルを紹介しつつ、個々の細胞の変形しやすさを変化させると細胞集団全体がガラス的に振る舞う現象を発見したのでそれを報告する。
[1] Imoto, Saito, et al. (2020). bioRxiv. [2] Saito and Sawai. (2020) bioRxiv
(2020年8月1日着任)