2024.12.13 部門セミナー
植物細胞壁に観る力学動態ヒステリシス
浅岡 真理子 博士(神奈川大学 理学部 助教)
2024年12月13日(金) 15:45 より 16:30 まで
基生研 明大寺地区1階 会議室(111)
植物環境応答研究部門 四方明格(7557)
植物に水やりを忘れていると地上部が垂れ下がることが意味するように、植物細胞では高い膨圧が保たれており、細胞壁は力学的に緊張状態にある。これに加え、器官の外側(円柱状の茎でいうと表皮組織)では、内側の膨張(内部組織の成長)と器官の形状に起因した力学的ストレスにさらされている。そのため、植物の秩序立った形態形成には、成長過程において細胞間で絶えず変化する力学的動態が制御される必要がある。近年、シロイヌナズナのある変異体系統や形質転換系統では茎に亀裂が生じることが報告されている。これらの系統では茎内部の過度な細胞増殖や細胞伸長が確認されていることから、茎に生じる亀裂はまさに、植物器官には耐えうる力学的ストレスの閾値があり、形態形成の不均衡は器官の物理的損傷を引き起こすことを体現しているといえる。
発表者の研究の目的は、丈夫な茎の形成過程における力学的な制御機構を明らかにすることである。植物細胞における力学的動態を理解する上では、細胞壁の組成や強度に加え、形状も重要な情報であると考えた。そこで、茎の表皮細胞を詳細に観察したところ、茎に亀裂系統が生じる系統では、表皮の細胞壁が茎の周縁方向に引き伸ばされていることが明らかとなった。これは、細胞壁の形状がその細胞が経験した力学的ストレスを反映していると捉えられる。本発表では、茎の形態解析と力学試験から得られた結果を基に、茎の成長過程における力学動態ヒステリシスを考察する。
*同日15時からの高橋大輔博士(埼玉大)のご講演にもぜひご参加ください。