2023.06.12 部門セミナー:TSBセンター新規モデル生物開発室
Na輸送体AtHKT1の生殖時における耐塩性機構
内山剛志大学院生、石丸泰寛准教授、魚住信之教授(東北大学大学院 工学研究科)
2023年06月12日(月) 15:30 より 16:30 まで
基生研 明大寺地区1階 会議室 (111-112)
新規モデル生物開発室 鈴木賢一(7540)
世界の農地の5分の1が塩害にさらされており,塩害面積は毎年増加すると推定されています.ナトリウムは人にとって必須元素ですが,植物においては栄養元素ではなく,むしろ有害です.なかでも花や種子を形成する段階(生殖器官)はナトリウムの害を受けやすいことが知られています.世界人口とともに増加する食糧需要を満たすために,塩環境下においても健やかに生育する作物の創製およびその耐塩性機構の解明が急務です.
ナトリウム輸送体AtHKT1は,モデル植物であるシロイヌナズナにおいて耐塩性に重要なタンパク質として,根の道管で機能することが示されていました.
本研究では,AtHKT1が雄しべの道管と篩管で機能し,雄しべにナトリウムが溜まるのを防いでいることを明らかにしました.さらに,AtHKT1を篩管に追加発現すると,塩環境下において通常植物と比べて種子の形成量や植物収量が上昇しました.
以上の結果から,AtHKT1は道管から篩管へナトリウムを積み込むことによって花などの組織先端へのナトリウム蓄積を緩和し,塩環境下における正常な生殖に重要であることを明らかになりました.
この耐塩性の知見は,塩害土壌や海水利用など塩環境における植物栽培に活用されることが期待されます.
【参考文献】
Uchiyama et al., Science Advances, 2023.