2021.05.13 部門公開セミナー
クロマチンリモデリング因子を介したパラサイトDNAの沈静化機構
越阪部 晃永 博士(東京大学大学院理学系研究科 / JSTさきがけ)
2021年05月13日(木) 15:00 より 16:00 まで
Zoomオンライン(Zoomアドレスはメールにて別途ご案内)
クロマチン制御研究部門 中山潤一(7680)
染色体機能部位の多くを占める反復配列は、動植物の垣根を越えて特徴的なエピゲノム修飾を受ける。特に、ペリセントロメア領域は可動性DNAであるトランスポゾンを多く含むため、DNAやヒストンH3のメチル化修飾を含む構成的ヘテロクロマチンを形成してトランスポゾンの機能発現を鎮静化している。シロイヌナズナを用いた遺伝学的解析により、この抑制型エピゲノム修飾の維持に必須な因子としてクロマチンリモデリング因子Decrease in DNA Methylation 1(DDM1)が同定され、DDM1の機能喪失植物において大量のトランスポゾンの脱抑制と可動化が観察されている。しかし、DDM1の同定から30年近くが経ったにも関わらず、DDM1によるトランスポゾン沈静化の分子機構は未だ不明であった。
本研究では、ペリセントロメア特異的に局在し、クロマチンの凝集効果があるヒストンの亜種(バリアント)H2A.Wに着目し、ddm1変異植物体を用いてゲノムワイドな解析を行なった。その結果、DDM1の機能喪失に伴ってトランスポゾンがH2A.Wを失い、その代わりに他の遺伝子と似たようなエピゲノム修飾を受けて脱抑制されていることが明らかになった。DDM1はH2A.Wと直接相互作用し、その相互作用がDDM1によるトランスポゾンの鎮静化に重要である結果が得られた。さらに、DDM1のH2A.W結合領域が哺乳類オルソログHELLS/LSHにも保存されていた。このことから、本研究で明らかになったトランスポゾン鎮静化の新規機構は、動植物で広く保存されていることが示唆された。
本セミナーでは未発表データも紹介して、クロマチンリモデリング因子によるヒストンバリアントのダイナミクスを介したトランスポゾンの沈静化機構について議論したい。
参考文献:Osakabe, Jamge et al. (2021) Nature Cell Biology 23, 391-400.