2021.02.03
新規モデル生物開発センター公開セミナー:ゲノム編集テクニカルセミナーIII
哺乳類細胞における転写バースト制御機構の解明
演 者落合 博 講師 (広島大学大学院 統合生命科学研究科)
日 時
2021年02月03日(水) 15:00
より 16:00 まで
連絡先新規モデル生物開発センター 鈴木賢一 (7542)
詳 細同一のゲノム情報を持つ細胞集団では、ほぼ同一の環境下であったとしても複数遺伝子が細胞間で大きな発現量多様性を示すことがあり、この現象を細胞間の遺伝子発現量多様性と呼ぶ。この多様性は、マウス胚性幹(ES)細胞を含む様々な生物種および細胞種において認められる。多様性出現の根底にある分子機構には、遺伝子調節ネットワークおよび細胞間相互作用によるフィードバックに加えて、不連続な転写活性・不活性状態の切り替わりによる転写バーストと呼ばれる現象によって引き起こされる。転写バーストの動態は、転写活性状態の割合であるバースト頻度と、転写活性状態あたりの平均mRNA転写数であるバーストサイズによって記述できる。また、これらとRNA分解速度から、細胞内の平均mRNA発現量や転写バーストによって誘引されるmRNA発現量の細胞間多様性の大きさ(intrinsic noise)が規定されると考えられている。しかし、哺乳動物細胞において、転写バーストの動態やintrinsic noiseがどのように制御されているかは、ほとんど明らかになっていなかった。
我々は、1細胞完全長Total RNA-Seq法であるRamDA-Seqを用いてハイブリッドマウス胚性幹細胞で1細胞RNA-Seqを行い、対立遺伝子ごとの発現量を区別することによってゲノムワイドにintrinsic noiseの大きさを定量した。ゲノム解析と機能検証によって、intrinsic noiseおよび転写バースト動態がプロモーター及び遺伝子領域の結合タンパク質の組合せによって決まることを明らかにした。さらに、CRISPRノックアウトライブラリーを用いた網羅解析によって、Akt/MAPKシグナル経路が転写伸長効率の調節を介して転写バーストの調節に関与することを見出した。本発表では最新のデータを紹介するとともに、マウスES細胞において認められる遺伝子発現量の細胞間多様性にintrinsic noiseが如何に関わるのかについて議論する。