2017.11.15 部門公開セミナー
DNA二本鎖切断修復の経路選択性とその変化に伴う細胞応答制御
柴田 淳史(群馬大学大学院医学研究科)
2017年11月15日(水) 15:00 より 16:00 まで
明大寺地区1階 会議室 (111)
幹細胞生物学研究室 坪内 知美 (7693)
DNA二本鎖切断(DNA double strand break: DSB)は細胞にとって最も致死的であり、重篤なゲノム不安定化を引き起こすDNA損傷である。細胞内に生じたDSBは非相同末端連結(NHEJ: non-homologous end joining)又は相同組換え(HR: homologous recombination)のいずれかの経路によって修復される。DNA損傷を受けた細胞はDNA修復を試みる一方で、DNA損傷シグナルを活性化させ様々な細胞応答を引き起こす。
細胞は時と場合に応じて、最適なDSB修復経路を選択していると考えられる。これまで、DSB修復経路の選択性は細胞周期によってのみ制御されていると考えられてきた。すなわちG1期ではNHEJ、S/G2期ではHRがDSBを修復するというモデルが提案されてきた。しかし一方で、我々を含めた近年の研究により、放射線照射によって生じたDSBは、G2期であってもNHEJが約70%のDSBを修復し、HRは全体の30%程度のDSB修復にのみ関わることが明らかになってきた。以前我々は、G2期で生じたDSBに対し、細胞は第一にNHEJを試みること、NHEJが停滞・遅延した場合に、修復経路がHRへと切り替わることを見出した(1)。その切り替えにはCtIP及びMRE11エンドヌクレアーゼ活性が必要であることを発見している(2)。さらに近年、家族性乳がんの原因遺伝子産物であるBRCA1が、NHEJ促進因子である53BP1の脱リン酸化を促進することで、DSB近傍をHRの進行に適した環境へ変化させていることを明らかにした(3)。本セミナーではこれら研究成果と合わせ、現在我々が行っているDSB修復の統合的制御の最新の知見について紹介する。またセミナーの後半では、DNA損傷応答が引き起こす生体応答の一例として、放射線照射や化学療法剤が誘発するDNA損傷応答とがん免疫応答の関連性について最新の研究成果を紹介したい。
1. Shibata A et al., EMBO J., 2011
2. Shibata A et al., Mol. Cell, 2014
3. Isono et al., Cell Rep., 2017