2017.03.30 部門公開セミナー
適応進化でのエピジェネティックスの役割
小林 一三 (パリ大学サクレー校)
2017年03月30日(木) 16:00 より 17:30 まで
明大寺地区1階 会議室 (111)
ゲノム情報研究室 内山郁夫 (7629)
適応進化についての支配的な考え方は、「多様なゲノム配列」を単位とするものである。しかし、細胞分化では、エピジェネティックス(ゲノム配列情報にかぶさって複製される情報)が重要な役割を果たす。進化についても、ゲノム配列よりも「多様なエピジェネティックな状態」を単位と見たほうが良いのかもしれない。実際エピジェネティックな状態が世代を超えて伝わる例が、植物動物で続々と明らかになってきている。
私達は、この問題を、「生殖系列=体細胞系列」とみなせる単細胞細菌で解析している。ピロリ菌は多数の制限修飾系をもっており、それらはゲノムDNAの配列特異的メチル化によってメチロームを支配している。ゲノム解読とPacbioマシンによるメチローム解読によって、制限修飾系の一部が頻繁に認識配列を切り替えて、メチロームを多様化していることが分かった。それぞれのメチル化酵素のノックアウトによって、トランスクリプトームに独自の変化が起きた。それから予想された運動性・ROS耐性などの適応的形質も変化した。
これらの解析から、「多数のDNAメチル化酵素をハブとする遺伝子発現制御ネットワークが形質を支配し、その一部が絶えず認識配列を変えてネットワークを作り変えていくことによって、適応地形が探索される」というピクチャーが現れた。