2015.10.01 部門公開セミナー
キャピラリー電気泳動-質量分析(CE-MS)の特性と一次代謝産物の網羅的分析の活用
戸松 創 博士
2015年10月01日(木) 14:00 より 15:00 まで
山手3号館2階西 大会議室
植物発生生理 川出 健介 (5883)
岡崎統合バイオ・BIO-NEXTプロジェクトでは、メタボロミクス解析をアカデミアでの共同研究というかたちで進めています。しかし、メタボロミクス解析を行うには、民間企業の受託解析を利用するという選択肢も、ひとつとしてはあります。そこで、アカデミア/民間企業でメタボロミクス解析をするメリットやデメリットを理解して頂くことを目的として、現在、民間企業にご勤務の戸松 創 博士に講演をお願いしました。
(川出 健介)
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要旨:
近年の分析技術の進歩により、ある時点での生体の状態を網羅的に解析する”オミクス”研究はより身近なものとなった。代謝産物を網羅的に分析するメタボロミクスは、ある瞬間における生体内環境を化合物の変動として描画するものであり、トランスクリプトミクスによる遺伝子発現量の分析と組み合わせることにより、たとえば動物への投薬に対する応答や植物の病食害応答とその制御を分子レベルで記述することができる。
このようにメタボローム解析は強力な研究ツールであるが、いざ実践となるとなかなか手を出しにくいと考えられがちである。その理由としては、メタボローム分析を行う機器を揃えるコストが大きいこと、多変量の分析データの解析が困難であることなどが挙げられる。実際にはこれらの問題は受託解析を活用することによって解決することが可能であり、メタボローム解析を始めるハードルは高いものではない。例えば、民間企業の受託サービスとして、代謝産物測定の試料前処理からキャピラリー電気泳動-質量分析計(Capillary Electrophoresis-Mass Spectrometry, CE-MS)による分析を経て論理的なデータ解釈をサポートする主成分分析での多変量解析や分析データの代謝パスウェイへのマッピングまでがパッケージされたプランが提供されている。
CE-MSによる代謝産物の網羅的解析の特徴として、キャピラリー電気泳動(CE)により水溶性でイオン性の低分子を効率的に分離できることが挙げられる。たとえば、糖リン酸, 有機酸, アミノ酸, 核酸などはCEで効率的に分離される。生体内において一次代謝を構成する主たる代謝産物を分離・検出できるため、CE-MSはエネルギー生産の研究などにその強みを発揮する。また、化合物の親水性/疎水性に基づく分配を原理とした分離が行われる液体クロマトグラフィー(LC)は補完的な関係にあるため、CE-MSとLC-MSの分析データを統合することで(非揮発性)代謝産物の大部分を対象とした網羅的解析が達成されることを期待できる。本講演では、CE-MSの分析上の特性と外部受託解析を活用するメリットについて、受託分析サービスの結果が論文に利用された事例を織り交ぜながらご紹介したい。
(戸松 創 博士)